調達業務のリスクマネジメント~東日本大震災の教訓 1章(3)-4

山口県で勤務する立脇徹が直面したのも、調達品の構成比率数パーセントにすぎない充填剤不足だった。対象は粘度調整のフィラーだった。フィラーが調達できないことは、すなわち、調達品がまったく製造できないことにつながる。立脇がややサプライヤーに懸念を抱いたのは、震災後の打ち合わせのときに、それを明示化してくれなかったことだ。充填剤は足りないと教えてくれた。しかし、物質名は教えてくれなかった。すぐに代替評価することになったものの、当初からフィラー不足とわかっていれば迅速化できたという思いが消えない。他のサプライヤーからも同様に充填剤の代替評価依頼があった。しかし、同様に物質名を教えてくれなかった。のちのち同じくフィラーであることがわかった。いまは平常時ではない、緊急時だ。重要物質であっても、それが手に入らないことをバイヤー企業に隠す必要はなかった。立脇は、このようなときこそ情報を隠さずに初期段階からオープンにすることが大切だ、と感じた。

三つ目は、購買部内の業務分担の難しさだ。西城は、震災直後の混乱時に情報収集の指示が明確ではなかったことについて考えていた。ある担当者は一つの製造部からの問い合わせに必死になっている。しばらくすると、違う製造部が問い合せてくる。同じサプライヤーに対して、Aという製品の納期を聞き、在庫確認をし、すぐさま違う電話でBという製品の納期を聞き、在庫を確認する。西城が見たのは、同じ部材の在庫確認資料を作成している二人の部下の姿だった。

ただし、これは西城の企業だけではない。野田が悩まされたのは上司の情報非公開ぶりだった。トップは、「どんな細かな情報でもすべて開示せよ」という。しかし、野田の上司は、些末なことをトップの耳に入れるべきではないと考え、被災ランクが低いサプライヤーの情報を隠蔽していた。その後、材料が手に入らずにそのサプライヤーは納入を遅延させてしまった。「報告されていなかったサプライヤーがなぜ納期遅延するんだ」トップは野田の上司を叱責した。すると、野田にしてみればもともと予想できていたはずの納入遅延にかんしても、さらに詳細な情報を求められる。情報収集項目の一元化ができていなかったせいもあって、野田はずっと奔走していた。トップから要求された情報のみをひたすら集める日々が続いた。部下にどう指示をすればよいか、他部門やトップに対してどのような報告をすればよいか。このことについて自省的に語っている人たちは多い。

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