4章-13:取引先管理

だいぶ経ったあと、大学を卒業し大阪を遠く離れた私は、ひょんなことから氏と再会を果たします。ご自宅ではなく、ご両親宅に招かれました。そして、氏は「仕事がうまくいかずに廃業した」と教えてくれました。えっと驚く私に、「さらに離婚もした」と。

私と出会ったときには、もうほころびが見えはじめていたといいます。そのあやうさのなか、大学生の私と出会っていました。「そうなんですか」という私に、氏は、微妙な笑みを浮かべてくれました。

そのとき、驚きました。

あ、あのときの微妙な笑みだ、と私は思いました。

なんとなくではありますが--。いまならすこしわかる気がします。希望にあふれる学生が目を輝かせてきたとして、私たちは微妙な笑みを浮かべること以外の何ができるでしょうか。呻吟のなかで、氏がやっとふりしぼった微笑だったにちがいありません。

私は会社員だったころ、就職学生への説明会に参加したことがあります。調達・購買業務の仕事内容や日常を説明するのですが、学生にとってみたら未知の世界です。調達・購買業務についての質問をしようにも、できるはずがありません。こちらは、市況がどうだとか、査定がどうだとか、取引先管理がどうだとか話をしているのですから。

出てくる質問は「楽しいですか」「やりがいがありますか」「面白いですか」の三つを変えたり派生させたりするものがほとんどでした。

そんな質問をされても説明員の役割として、「面白いですよ」としか答えようがありません。あるいは、「楽しくなるように工夫することが重要ですよね」ていどに笑いながらお茶を濁すのがせいぜいです。

そこで、私はふいに胸を衝かれました。

この笑みを、自ら浮かべるとは想像もしなかったからです。しかし、きっとこの笑みは、学生から見ると、さきの紳士の笑みのように見えたかもしれません。

社会と会社というのは、人間が形作るものですから、人間同士の衝突はもちろんあります。さらに調達・購買部門というのは、その人間同士の接触のなかに果敢に携わっていく、コミュニケーション業務の側面がありますから、ストレスがたまるのは仕方のない側面があります。私の表現でいえば、微妙な笑みを浮かべやすくなる仕事でもあります。

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