４章-12：取引先管理
(4)協力会社の囲い込み、経営アンケートの作成
ちょっと唐突な話ですが、私が大学生だったころ、大阪の片隅で居酒屋のバイトをしていました。
とくに特殊な仕事ではありません。個人経営の店で、常連客への給仕です。馴染みのお客が多かったためか、さまざまな会話を繰り返すようになりました。ときには、バイト中に酒を酌み交わした経験もあります。
そのうち、スーツを着たひとたちに「どんなお仕事なんですか」と訊くのが常套句となりました。大企業に勤めるひと、個人事業主、さまざまなひとがいましたが、記憶にあるのは「どんな仕事なのか」ほとんどわからなかったことです。聞くかぎり、どうも社会人というのは、複雑怪奇な業務を魔法のように重ねるらしかったのです――。私は、ほとんど恐懼したほどでした。
おそらく、私が調達・購買業務について、内容を聞かされても、「外部からモノや人を買ってくる仕事ですか」と、ほぼ理解できなかったに違いありません。
そんななか、店で、ある紳士と仲良くなりました。氏は技術士で、私にさまざまなことを教えてくれました。推薦図書をもらったこともあります。財布の中には、若き日の奥様との写真が入っていて、会うたびに「このあと時間があれば」と、夜な夜な私を飲みに誘ってくれ、若く不遜な私の社会への質問や疑問を、やさしく教えてくれました。
私は氏の活躍を教えてもらうたびに、「いや、すごいですね」と感嘆したのを覚えています。すると氏はきまって微妙な笑みを浮かべていました。その笑みは、謙遜ではなく、どこか否定すら感じられました。
