4章-3:取引先管理
あるとき、師匠に相談したことがあります。この師匠は、私と同じ会社ではなく、まったくの別業界にいますが、私が常に心を寄せているひとです。師匠は、「そんなの考えたって仕方がない」といいます。「人には、得手不得手がある」と。「しかし、その得手不得手がわかるためには、すべての業界を経験する必要があるのではないでしょうか」と私。
そうすると、「でも、たまたま、いまの仕事を選んだんだから、それが得意ってことだよ」と師匠。私が納得できないでいると、「奇跡はない。いや、ほんとうは、あるんだけどね。だけど、奇跡なんて、なくなればもっと良い世界になるよなあ。奇跡なんてものがあるから、みんな、ありもしない夢ばかり見ちゃう」と師匠はいいました。
私は「けっきょく、目の間のことをやれ、ってことですか」というと、「正確には、目の前のことしかない、と思って、ちゃんとやれ」と訂正されました。
では、と思って、目の前を振り返ります。
取引先との無意味な言い争い。納期調整のいう名の懇願。いった、いわないの、不毛なやりとり。誰かからの怒りのメール。と思えば、誰かからは仕事を押し付けられる。
しかし、ここで発想を逆転することができないか。この逆境の状況にあえて見を飛び込むことで、そこから学びを享受できないか。誰もが飛び込もうとしない、調達・購買の深いところに入っていって、そこでもがき苦しみながら、なんらかの学びを得たら、きっとそれは代えがたい付加価値になるはずだ。と、もっとも完全に打算的だったわけではありません。ただ、私は紆余曲折しながら、なんとか、目の前の相手――調達・購買でいえば、取引先になるわけですが――と真剣に対峙しようと試みました。