5-(4)-2 電子調達による円滑化
e-コストドライバー分析によって、調達履歴のある製品のコスト構造を瞬時に分析できるようになりました。また、e-RFxにより、サプライヤーに対して情報提供依頼から見積り入手までを電子上で行なえ、データ比較など容易に実施できます。また、リバースオークション(e-RA:electric Reverse Auction)では複数のサプライヤーをサイバー上に集結させ競合を実施できるようになっています。電子カタログメンテナンスツールでは、入札に応じたサプライヤー情報を自社の調達製品カタログにアップロードし、更新にかかる時間を大幅に削減することも可能です。
しかし、私の例は、ERP・電子調達システムは当然として、これらの各種ツールも利用できるようになってからの話でした。「ツールはある。でも使えない」。こういう状況は各社で見られます。私自身の例もふまえて、言えることは二つです。
①ツールを導入したからといって、効果が自然に創出されるわけではない。
②ツールを使わせるような(操作を覚えたくなるような)インセンティブが必要となる。
順に説明します。
①は、早い話が「ツールはバイヤーが通常やっていたことを、速くできるようにさせるだけ」ということです。これまで、どのようにサプライヤーのコストを分析していたのか。あるいは、競合時はどのような要求項目をサプライヤーにぶつけていたのか。あるいは、どのようなサプライヤー選定基準を持ち、進めていたのか。こういうことを、一つ一つ分解し、明文化し、スタンダードな業務プロセスを整備することが一番大切なのです。
こういうことを整備せずに、パッケージソフトだけ買ってきたり、自社の調達・購買プロセスを全く知らないコンサルタントがツールを導入したりするだけでは、効果が出るはずはありません。バイヤーがやれないことをツールが可能とするわけではないのです。
②は①より難しい問題でしょう。プロセスの整備のあとには、実際にバイヤーにそのツールを使ってもらわねばなりません。ツールを操作する能力を得、向上させていかねばなりません。
しかし、そう上手くはいきません。「面倒だから」という愚にもつかない理由で、電子発注をせずに紙の伝票を使ったり、RFxは紙・FAXで行なったり。10時間ほど訓練すれば、たいていのツールは使いこなせるようになるのですが、目の前の面倒さゆえについつい新たなツールの学習を嫌悪したり、そもそも使ってみようとすら思わなかったりと。これは人間ならば誰しもあることです。
これを読んでいるような方であれば、業務の例外処理などしないでしょう。ただ、「みんなが特定のツールを使うようにする」ためには次のようなことが有効です。それは、「①ツールの優位性 ②規則 ③倫理・道徳 ④評価」の四つです。
その内容としては、発注業務を例にとります。どのバイヤーも「これは楽になる」「これは紙伝票よりも使っていて愉しい」と思わせるような電子発注ツールとすることが「ツールの優位性」。紙やFAXでの緊急発注制度自体を完全撤廃してしまい、同時にサプライヤーには対しては、それらの発注を拒否するように申し入れることが「規則」。また、これからは必ずシステムを使いましょうと社内に広めることが「倫理・道徳」。そして、システムを使わずに例外処理ばかりしていれば、その個人の給与査定を下げるということが「評価」。
①は当たり前なので、いまさら言うべき必要はなかったかもしれません。が、ツール・システムの導入自体が自己目的化していることがあるので、あえて申し上げました。
これからの時代はスピードが重要となってきます。紙をずっと使うよりも、電子上のデータを使ったほうが効率的で効率的になることは間違いありません。そして、各人がバラバラにやるよりも、皆が共通のツールを使った方が良いことも間違いないはずです。
駅中の喫茶店には客の椅子を硬くすることによって回転率を上げているところがあるそうです。同じく、ツールを広げるためには各人へ①~④のようなインセンティブを与える必要があります。これらを上手く組み合わせて、日々の調達・購買業務の円滑化と効率化と深化を目指して下さい。