3-(3)-3  調達・購買を強くする四つの力

<質問>

『サプライヤーの危機感を醸成する方法をできるだけ多く考えてください』

  • 自社の競合他社がつきあっているサプライヤーの優れた点を調べてみて下さい。
  • 先端企業の調達レベルを調べてみて下さい。
  • 自社の遅れている点、つきあいのあるサプライヤーの遅れている点を列記して下さい。

 

・四つの力は何のためにあるのか

 

バイヤーは、他者(社)の協力なしには成り立ちません。とするならば、サプライヤーから協力してもらえないこと、周囲を巻き込めないことが最も痛手となります。つまり、孤立・孤独してしまうことが、「あってはならないこと」なのです。

ならば、「孤独の本質とは、他者から理解されないことではなく、他者から理解されることではないか」と、またしても大袈裟に思われることを言ってみます。「他者から理解されること」が「孤独の本質」であるとはどういうことか。考えてみるに、恋愛の始まりが「あなたのこと、もっと教えて」であり、恋愛の終わりが「あなたがどういう人だか、分かったわ」というコメントで捨象されることは、かなり示唆的です。

 

サプライヤーにとって、バイヤーの投げてくるボールが完全に分かってしまったとしたら、つまらない。いつも同じことをするのだろう、とサプライヤーに思わせれば緊張感もなくなっていくしかありません。

競合を実施しながら、結局はどんなコスト結果であろうが、発注先に選ばれるサプライヤーが最初から決まっていて、そこと交渉を繰り返している様を傍から見れば、他のサプライヤーは適当にしか見積りを提出してこないでしょう(問題解決力の欠如)。偉そうなことを言いながら、いつも同じことを繰り返していれば、サプライヤーは自ら改善してより良い姿を目指そうとはしないでしょう(課題達成力の欠如)。いつもバイヤーから聞こえてくるお題目が同じであれば、サプライヤーは現状に留まってしまうでしょう(フレーズ力の欠如)。バイヤーが、新たな領域に果敢にチャレンジできない人間と思われれば、なおさら、現状維持のみを良しとするサプライヤーばかりになるでしょう(危機感醸成力の欠如)。

調達・購買部門やバイヤーは常に変わり続けなければいけません。それは、進化し続けるという無謀な挑戦を引き受けるということです。現在の立脚点に安住せず、常に上に向かおうという心意気があるかどうかを周囲から見られています。

バイヤーの投げてくるボールが分からない、分からないけどバイヤーの次の一手に期待してしまうからこそ、サプライヤーはバイヤーについてくるのです。だから、常にバイヤーは違うボールを相手に投げ続けなければいけません。バイヤーのことを理解され、バイヤーがその通りに振舞うだけならば、サプライヤーは離れていきます。

相手をその気にさせ、日々の進化を促すには、こちらは緊張感を与えなければいけません。「俺はこれだけ変わり続けている。それに比べ、お前はどうだ」という強きメッセージを感じさせなければダメなのです。

四つの力は、サプライヤーの力を最大限に引き出すことに使われます。それは、単に言葉の遊びではなく、他社を広く巻き込んだ真なる調達改革を実現するために、求心力としてサプライヤーを引き寄せる接着剤なのです。

 

<雑感>

鈍感力などという言葉が騒がれた時期がありました。この言葉を「発明した」方は若干違う意味で使っていることを私は知っていますが、多くの人の評価は「そうだよなあ、人間って多少は鈍感なくらいがちょうどいいよなあ」というものだったようです。

しかし、残念ながら私の見てきた優秀な方のほとんどは多感な方で、かつ敏感な人たちでした。鈍感だったことは、ごくまれな例外を除いて、ほとんどいません。細部にこだわったり、一つのことに悩んでしまったりする方が、むしろそのときの改善を将来につなげていけるのではないかと思うほどです。

考えるに、バイヤーになりたてのころは誰だって「1週間の納期遅延」や「100円の目標コスト未達成」に胸をドキドキさせながら、眠ることすらできなくなります。それに対して、ベテランバイヤーはその程度では驚くこともありません。バイヤーとして年数を重ねることとは、どんどん鈍感になることではないか、とすら思えます。

これは、もちろん最終ゴールまでの道筋が見えている、という経験豊富さゆえの違いもありましょう。しかし、その達観ゆえに、目の前の事象を受け流してしまうという余裕ゆえに、根本的な改善を目指そうという気持ちを喪失してしまいがちになります。「困った、困った、どうしよう」と悩むことが、将来の大きな変化を生むはずです。少なくとも私の場合はそうでした。

仕事をこなせるようになりながら、かつ新人のときのような緊張感と「敏感力」を持ち続けること。それが、常に進化していける人の条件ではないかと思うのです。

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