3-(4)-1 先端技術と能力の調達
・時代が変われば買うものも変わる
設計者が設計図を書かない、ということをあなたは信じられるでしょうか。
いや、多くのバイヤー企業で、それは現実化しています。自社製品をつくるとき、設計者がまずやることはサプライヤーの技術者を呼ぶことです。そして、こちらの製品仕様を説明し、そのサプライヤーに担当してほしい領域を伝えます。そして、こちらの要件伝え、「これにマッチする仕様で設計を開始して下さい」と伝えるだけ。設計者は図面を書かず(書けず)、サプライヤーを集めていかにそれらの技術を上手くマッチングさせるかどうかに注力しているのです。私が入社したばかりのころは、設計者といえば作図するというイメージがあったものですから、だいぶ戸惑いました。しかし、現在では図面がほとんど読めない「設計者」たちがいても、驚くに値しません。
最終製品の生産者たちはみな、外部のサプライヤーたちの技術のアレンジに時間を割いています。しかも、それは賛同する賛同しないに拘わらず一つの時代の潮流となっているのです。
コンピュータの例を考えれば分かるでしょう。コンピュータのシステムは集約型から分散型へと移り変わっていきました。当初は、基幹コンピュータという巨大なマシンが一手に計算処理を請け負い、末端では結果の出力をしていたくらいです。しかし、その概念を壊したのが、パーソナルコンピュータの登場です。パーソナルコンピュータの発展は、中心に頭脳・演算能力を集中させるのではなく、それぞれの端末毎にそれらを分散させるという思想に基づいていました。それと同時に、末端としてのパーソナルコンピュータがコンパクトながら演算能力を進化させていったのです。昔であれば、巨大コンピュータが行なっていた処理も、いまではノートパソコンや場合によっては携帯電話でも行なうことができます。
これはそのままバイヤー企業とサプライヤーとの関係にもあてはめることが可能でしょう。かつて、自前主義で何もかもを自社でやり切ることを売りにしていた企業はたくさんありました。製品の基本設計は当然として、ソフトウェアや、小物部品の生産だって、自社でやることに強みを見出していたのです。
これまでのバイヤー企業のサプライヤーに対する考え方は、「部品と手間を調達させてもらう」というものでした。バイヤー企業が設計するので、その生産を手伝ってくれないか、というスタンスです。自社内では金銭的・時間的観点からできない領域を、外注するという姿勢でした。ここでは、一般的に思われているような、バイヤー企業-サプライヤーというピラミッドのような階層があり、「仕事をあげる」「仕事をもらう」という上下関係に基づくものになってしまいがちです。
それが、技術発展のスピードの速さと商品開発スパンの短期化から、どうしても自社内だけで解決することが難しくなってきました。自社内で全てをやっても良いのでしょうが、それでは巨額な人的・金銭的投資が必要となり、あまりにも企業としてリスクが高すぎます。さらに、現在は知識量の莫大な拡大の時代です。ほんのちょっと前までは、一つの技術分野だったものがどんどん細分化して、専門化しています。そのような荒野の前に立って、全ての領域を限られた資源でカバーするのは不可能。だったら、各領域の専業サプライヤーの力を借りよう、という動きは自然なことです。
その流れを受け、これからのバイヤー企業のサプライヤーに対する考え方は、「能力と技術を調達させてもらう」ということに変化していかざるを得ません。分散型社会の到来は、バイヤー企業を頂点とする取引構造ではなく、フラットで平等な取引構造を要求するからです。バイヤー企業は日々移り変わる市場の要求を敏速にとらえ、その要求を満たすような自社製品構想を練り上げ、その成立に寄与してくれるサプライヤーと共に製品を創り上げることになります。自社のみで技術を確立するのではなく、すでに固有技術を有するサプライヤーを取り組み、効率的に自社製品づくりを行うのです。