3-(5)-3 サプライヤーに対する逆転発想
3.Win-Winのコラボレーションを目指す
相手の100円の利益は、こちらの100円の損失。サプライヤーを敵とみなし、騙してでも、恫喝してでも安く調達することが、一種の能力とすらされてきました。
それは今でも完全否定されるものではありません。しかし、市場環境が日々進化している今、特定サプライヤーとタッグを組む必要性が出てくることを説明してきました。こうなれば、サプライヤーに対する位置付けは敵から利益共同体としてのパートナーに変える必要があるのです。サプライヤーに適切な利益を確保させることができなければ、サプライヤーの研究・開発が進むはずはありません。事業の拡大のための投資も期待できなくなるはずです。それらは結局のところ、バイヤー企業と共にジリ貧になる運命となります。
Win-Winということを言うのは簡単です。しかし、実行するとなると難しい。こちらと取引を拡大してサプライヤーが儲かることは本来良いことのはずなのに、どこか相手の利益を拡大させることがバイヤーの無能さを表しているように感じてしまうのです。「相手の利益はむしり取れ」という発想は、「サプライヤーが儲かっているなんて許せない」という短絡的憤慨につながっていくしかありません。
これは前著にも書いたことですが、そういう発想を排除すべく、
- サプライヤーの管理比率を両社で合意し決めておく
- 期毎に管理費として得た利益の使途を両社でレビューしていく
ということをやりましょう。製品毎に利益をいくら与えるのか、そしてそれらをどのように使うことで競争力を上げていくのか。サプライヤーの内部に入り込んで、そこまでやるんですよ。それこそが、「戦略的癒着」なのです。
さて、現場のバイヤーのために、もっと簡単で、もっと基本的なことを書いておきましょう。調達・購買関係のどの本にも書かれていませんが、サプライヤーとWin-Winの関係を築く上で最も重要なのは、「この人と会いたい」と思わせることではないでしょうか。二十歳も過ぎた大人(しかも多くは男性同士)が、相手に会いたい、相談したい、提案したい、と皮相的な魅力では思わせることはできません。こちらだって、「この人とはコンタクトを取り続けていたいな」と思わせる営業マンはそういないはずです。
知的興奮でも良いですし、必ず仕事をやってくれるという安心感でも良いですし、会っているとわくわくするという感情でも良いでしょう。そういうことを感じさせていれば、相手は必ずこちらのために動いてくれるようになります。人間とは誠に不思議なもので、相手から与えられてばかりいると、どこかこちらからも相手に何かしてあげてやりたくなってしまうものです。
こちらが儲かって、むこうも儲かって、会社は拡大。だけど、社員は疲労困憊している。相手先とはギスギスした関係になっている。こんな状態が果たして続くでしょうか。それで、Win-Winの関係だと言われても、どうしようもない。仕事の過程も楽しめて、本当のWin-Winと言えるはずです。
「過程が大切か。それとも結果が大切か」。そのような議論がなされることがありますが、どうも私にはどうでも良いことのように感じられます。過程が楽しめ、充実感のあるものであれば、勝手に結果はついてくるからです。「この人との仕事は面白かったな」と思えるものは、必ず良い結果になっています。違いますかね。
サプライヤーとバイヤーが相互尊敬に基づく関係を構築していること。その果てにこそWin-Winの関係などないのです。