3-(4)-3 先端技術と能力の調達
こういう比喩を挙げてみましょう。
多くの人たちが「古き良き時代」と呼ぶ、大家族・家父長制の時代は、大黒柱としての父性に支えられてきました。そこでは、父親(バイヤー企業)に絶対的な権力があり、その権力という幻影ゆえに、多くの家族(サプライヤー)から従属を得ることができたのです。父親から「こうしろ」と言われたことには従うしかありませんでしたし、それに反論することもできませんでした。また、人生の教訓や知識(技術知識・能力)を最も持ち合わせているのは父親でしたから、父親の威厳というものを確保しやすかったのです。
しかし、核家族が進行し、さらに時代の流れが速いものだから、父親(バイヤー企業)のこれまでの経験だけでは対処しきれないことが多くなっていきました。父親が家族に先まで見据えたアドバイスや指導をしようと思っても、不確実性の時代にあっては、それができない。むしろ、外部で広く経験を持った子供たちの方が世の中を知っていることだってある。そんな状況になっています。
父親が昔の考え方を捨てきれずに、「絶対的な唯一の支配者」として振舞えば、父親は不良債権となり家族から見放されるしかありません。一つの「イエ」を存続させることのみを目的として、その掟に従わせるのではなく、家族個々人の人生を尊重し、それぞれの強みを幸福に結びつけるために一緒になって考え成長していくこと。それが、いやおうにも求められています。
バイヤーも古い職業像に固執し、抑圧的な態度でしかサプライヤーに接することができないのであれば、姥捨て山に捨てられるしかありません。外部からのアイディアと技術を自社製品に盛り込み、スピーディーに新製品を市場に投入する。その過程で、自社内にも技術と発想と文化を蓄積し、自らも成長していく必要があります。サプライヤーとの関係作りが、その企業の成長の最重要項目と言っても良いでしょう。
昨今の米国での調査によると、これまでバイヤーに求められていた能力が、単なるコスト低減だったのに対して、昨今ではサプライヤーリレーションシップ(サプライヤーとの関係構築)が求められていることは、示唆に富んでいます。
これまで、バイヤーはサプライチェーン・マネジメントの能力を問われることがありました。しかし、おそらくこれからは、サプライチェーンよりも、サプライヤーたちとバリューチェーンを作る能力が必要になるのでしょう。サプライヤーとの関係を構築・強化し、サプライヤーを活用する能力。これこそが、新しい時代のバイヤーに求められているのです。
<雑感>
サプライヤーの営業マンとの会話で、市場の動向を知ることができます。最近のトレンドはどうだ、こういう新製品が発表された、他社の調達・購買部門はこういうことをやっている、などなど。優秀な営業マンとつきあっていれば、教えてくれる量も増えていくでしょう。
しかし、なかには先端の知識を知っているように見えて、実はとんでもない営業マンもいます。「これからマーケットはこうなりますよ」なんてことを言うので、私が「それは違うと思う」と反論すると、「いや、絶対ですよ。間違いないね」と譲りません。私が、「あのねえ、私は業界で一番売っている営業さんから情報を得ているんですよ」と言うと、挙句の果てには「本当ですか。本当かなあ、それって。その人ってキーマンですか?」なんて疑い始めます。「では、あなたの情報源は何か」と訊くと、どこかのレポートだとか言うのです。あのなあ。
やや話が矛盾するようですが、サプライヤーから様々な情報を集めたとしても、それらをどう活用するかは結局のところ自分しだいです。世の中の本道がどうであれ、それを自分や自社に適応させていくかは自分で決めることです。
その営業マンからAという案を勧められても、違う営業マンからBという案を勧められても、どの道を選択するかは自分で考え答えを出しましょう。出した答えが、世の中の本流や王道とずれていても、信じてやるしかありません。
確信のある自己流は、王道に勝るからです。