4-(4)-1 サプライヤーと報酬制度
・毎期の調達結果を確実にフィードバックする
ほとんどの人は自意識過剰の中で生きています。と、また訳の分からない一言から始めてしまいました。でも、本当のことです。バイヤーの誰でも良いですから訊いてみて下さい。誰にもその人なりの哲学があり、主義主張があり、生き様があります。そして、「自分はデキる社員だ」と(口には出さないにせよ)自任しているはずです。客観的に見れば、本当にデキる人は2割くらいしかいないのですが、組織は自称「デキる人」の集まりになっています。
私はこのことを馬鹿にしたいわけでも、否定したいわけでもありません。人は「他者よりも、せめて平均よりも優秀だ」と思わねば生きる熱意を喪失してしまいます。それに、「俺は他者とは違う」と思う、その代替性のなさこそがなんとか今日も仕事にぶつかる動機だからです。そして、だからこそ逆説的に、上司や同僚からの客観的評価というものの重要性があります。自分のことを「デキる社員だ」と思い込むだけではなく、常に客観的な他者評価から自己のレベルを知り、本当の「デキる社員」に近づいていくプロセスが必要なわけです。客観的評価を受けることができない人は、よほど優秀ではない限り、知的怠惰に陥るか、独裁者的暴走しかありませんから。
自己評価の話を書いてきたのは、サプライヤー評価について個人の例から考えてみたかったからです。
人と人とのコミュニケーションは常に誤解の上に成り立っています。自分が伝えたことのほとんどは他者に伝わっていません。自分ではどれだけ頑張っていると思っていても、その評価はあくまでそのサービスの受け手が決めるものです。個人間で生じるそのギャップは、会社間であればさらに大きくなります。
「毎期、毎期、これだけ安くしてやっているのに、なんで評価してくれないんだ」とサプライヤーが思っているとしましょう。それが、本当に他社と比べてもコスト低減率が高いのであれば、「あなたのところは、とてもコストの優位性がある」と評価してあげなければいけません。そして、その見返りとして来期以降の発注割合を増してあげねばなりません。
逆に、大して安くなければ、「他社のコスト低減率はもっと高い」と現実を見せ、その思い上がりを訂正してやらねばなりません。それは両社の認識を合わせるというためだけではなく、そのサプライヤーに来期以降の改善を促すためでもあるのです。
そして、その評価は調達・購買部門だけの独断でなされたものではなく、バイヤー企業の全社的な取り組みとしてなされねばなりません。一つの企業として、一つのサプライヤーをジャッジする。それが相手には効きます。そして、相手には効くゆえに、公正・公平かつ客観的なものでなければなりません。
QCDDそれぞれの評価項目は黒板に書いたとおりですが、担当部門は異なり、プロの目から厳格にチェックします。
- Q(品質)・・・主に品質保証部門が担当
- C(コスト)・・・主に調達・購買部門が担当
- D(納期)・・・主に調達・購買、生産管理部門が担当
- D(開発)・・・主に開発・設計部門が担当
このそれぞれが担当する、ということはバイヤー企業内部にとっても良い影響を与えます。この評価プロセスにおいて、意外に重要なことは、それぞれの部門が一斉に介して特定サプライヤーについての印象・評価を意見交換することです。コスト領域では最悪な印象しか持っていなかったサプライヤーに対して、品質部門が「あそこの品質は最高だね」と高点数をつけたり、納期遅延ばかりを繰り返すサプライヤーに対して、開発部門が「あそこの設計陣は優秀だ」と太鼓判を押したりすることは珍しくありません。
これは、人と人の関係でも同じです。人間は誤解と偏見のかたまりですから、一度ついてしまった印象を拭うことは非常難しい。「この人はこういう人だ」と決めつけてしまった瞬間に他の良さを見ることはできなくなってしまいます。かくゆう私も誤解と偏見のかたまりのような人間ですから、なおさら他者の意見が貴重です。自分がその人について知っている側面は、ほんの一部だ、と思うことは哀しくもありますが、そういうものでしょう。できるだけ利害関係なく付き合っている個人同士であってもそうなのですから、利害としがらみにがんじがらめになっている組織同士であればなおさらです。第三者の目による評価を聞くことは、サプライヤーを再評価するきっかけとなります。