3-(1)-3  調達・購買の現状把握

<STEP3>

通常の「ありたい調達」まで達した後の、「革新調達」までの道のりのことで、飛躍の創造が必要になります。ここからは、目標とすべき他社も、普通の意味でのモデルケースも存在しません。これまで想像もつかなかったような(だから「飛躍」なのですが)奇策に近い発想が必要となります。

例えば、「コスト削減20%」ではなく「コスト削減80%」を目指すこと。そうなれば、これまでの常識では上手くいきません。基板や搭載部品を細かくコスト低減していくのではなく、一つのICで代替してみてはどうか。海外で開発された最先端モジュールを他社よりも、他業界よりも先行して使用できないか、など。ブレーンストーミングや、深い思考を重ねることによって、新たな道を拓いていきます。

 

100人100様のやり方があるように、それぞれの調達・購買のレベルによってやるべき方向性は異なってくるはずです。<STEP3>に至っているバイヤーは幸福ですが、まずは<STEP1><STEP2>を前提として次の質問を自己に投げかけてみましょう。

 

<質問>

『あなたがまず取り組むべきは、問題ですか?課題ですか?』

  • 問題とは、最低限あるべき調達の姿に達していないときに生じている障害のことです。
  • 課題とは、あるべき調達の姿は達成しているが、より良い姿に達せないときに生じている障害のことです。

 

こう自問すれば、これまで意識しなかった分類ができるでしょう。

あるべき調達を目指すためには、「問題解決アプローチ」が必要です。

ありたい調達を目指すためには、「課題達成アプローチ」が必要です。

 

調達における「問題」と「課題」が混合されていれば、間違った方策が練られます。まずは社内で生産に対する意識の統一が必要なところに、高級な生産管理システムを導入してしまい、システム上でむちゃくちゃな工期設定が繰り返される。高価なカスタム品においては、現場を見に行ったり取引先とVA/VEアイテムを考えたりすることによって少しでもコスト低減の努力をすべきときに、「中国調達で50%低減だ」と勘違いしてしまう。

これらは全て「あるべき調達に至っていない=問題解決アプローチが必要」なのに、「ありたい調達=課題達成アプローチをとってしまった」ことによる誤りです。もうこの本を読んでしまったあとは、問題と課題を使い分けなければいけません。

まずは、現状のもやもやとした「改善したいこと」を書き出してみましょう。通常そこには、問題もあれば課題もあるはずです。それを、「あるべき調達」に至っていないことか(問題)、「ありたい調達」に至っていないことか(課題)、を分類します。問題であれば、それらの中から、どの項目を最優先として取り組むべきかという決定を、重要度や金額の大きさなどの判断軸で決定してください。その問題が起こっている原因は何なのかを、できるだけ考え、その中から解決策を練り実務に応用していきます。課題であれば、より良くできる案を、これもできるだけ考え、業務への適用の中から効果を確認していく、というトライアンドエラーを繰り返しましょう。

ここで必要とされるのは、両方ともに「仮説力」です。「問題や課題は明確になった。それでは、こういう方法をとってみれば良いのではないか」という妄想にも似た発想力です。私が知る限り、優れたバイヤーとは、一見馬鹿げていて普通は口に出すこともはばかれるようなアイディアを、提案し実行してみる人でした。皆が中国調達に突き進み失敗していた傍らで、アフリカからの調達をもくろみ現地に果敢に乗り込んでいって、大幅なコスト低減を実現したバイヤーもいます。もちろん、その仮説には他社を説得するだけの理論がなくてはなりません。しかし、それでもなお、その発想力には脱帽してしまいました。

改善のためには、現状をしっかりと把握している必要があります。「そんなムチャな」と周囲が思ってしまうような大胆さの裏には、執拗なほどに考えられたアイディアがあり、計算があるのです。ニュースを見て、有名企業の海外調達の取り組みを知ったからといって、それをすぐさま自社に適用できるわけではありません。100人の患者に100通りの処方箋があるように、解決策は自分で考えて見つけるしかないのです。そういう企業から学ぶのは、「やっている方策」ではなく「それをやるに至った思考法」なのです。

どんなことだって、自己の問題・課題を定義して頭で考えれば、答えは出ます。考え抜いた果てに、「これしかない」と思えば、周囲からどう思われようと、やってみるしかないじゃないですか。

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