4-(3)-1 コスト低減とコスト回避

・コストは下がったのか、あるいは上げずに済んだのか

あるときに、「何億円も安くした」という先輩バイヤーの話を聞きました。しかし、どう見てもその調達価格が安そうには見えませんでした。また、こういうことも思い出されます。「自分の活動のおかげで、新製品の原価率が何十%も下がった」と宣伝してまわる自意識過剰なバイヤーがいたのですが、その結果その新製品の利益率が上がってはいないように思えることがありました。

結局、その「安くした」という金額は一体どこにいってしまったのか。まるでブラックホールにでも吸い込まれたかのような、使途不明金の所在をなぜ誰も確かめようとしないのか。それらが私の中で謎であり続けました。

すると、こういうことが分かったのです。これから書くのは、もちろん悪質な一例です。最初の見積りを受け取るとします。それが、100万円。そして、交渉を重ねる。ときには競合他社の見積りを匂わせたりして、下げていく。そうすると80万円になる。そのときに、差額の20万円をバイヤーの成果として報告しているわけです。そりゃ、そういう報告を否定したいわけではありません。ただし、もしそういう報告が許されるのであれば、少し頭の良いバイヤーなら、サプライヤーに「初回はわざと200万円で見積りを提出して」と頼んで、差額の120万円をあっという間に偽造して虚像の成果をデッチあげますよね。その120万円は、もちろん自社の利益向上とは全く無縁のものです。

ここで、もう一例を比較するために考えてみましょう。実際に100万円で調達し続けていたものを、悪戦苦闘しながら次期から80万円で調達できるようになったとします。すると、成果は20万円。するとどうでしょうか。そうやって必死に何回も交渉したり、現場を見に行ったりして得た成果よりも、偽造した成果の方が遥かに大きいわけです。加えて、上司もその二つの本質を見極められなかったとします。

これでは、誰だって偽造競争に参加するに決まっています。真面目にやるよりも、偽造してバレないのであれば、誰だって不正に手を染めるはずです。もちろん、「誰だって」とは言いすぎですが、その傾向はでてくるはずです。ここまで分かってしまえば、なぜ「何億円も安くした」はずなのに、「自社の利益が全く向上しないか」が理解できました。

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