7章3-3<セクション2~調達戦略の作り方>
・品目別発注戦略の作り方
そのうえで、次に、調達担当者としての戦略のたて方=品目別発注方針(戦略)の構築法についてです。
担当者レベルでの戦略構築には、二つのポイントがあります。
1.自分が担当する製品(サプライヤ)をどうするか
企業間購買の世界では、一般消費者を相手にする広い意味での市場は存在しません。しかし、狭くはあっても一つの製品に必ず売り手と買い手を含めた「市場」が存在します。そして市場が存在するからには、売り手と買い手のポジショニングが位置づけられます。調達担当者としてまず重要なことは、みずからが担当する製品やサービスをどのように買っていくかという戦略を立てることです。ここで重要な三つのポイントがあります。
(1)二つの視点
これは、自社から見たサプライヤと、サプライヤから見た自社という二つの視点を意味します。この二つの視点が現在どんな状態にあって、今後どのようにしてゆきたいか、そしてゆくべきかを見極めることが重要です。自社とサプライヤとの関係を恋愛にたとえるなら、基本的には相思相愛が理想的な姿です。しかし、多くの場合、なかなか相思相愛の形にはなりません。どちらかが一方的に相手を求める片思いとなるケースが多いのが現実です。片思いな状態とは、バイヤー企業側が強く思うことも問題です。そして、サプライヤ側が一方的に強く思うこともリスクの一つです。
著者は、ある購入品をサプライヤ一社に依存し、大きな外部要因の変動によって、まったく発注できなくなりました。依存していたサプライヤにとって受注量の激減は、資金繰りを直撃し、設備投資の直後であったことも災いして、会社の経営が立ちゆかなくなってしまったのです。
著者は、この一件以降、サプライヤへの依存度をサプライヤ側の売り上げの三割以下にすることを目指しています。サプライヤ側からすると理想的には10%でしょう。売上高の10%を単独一社から握られていると、なかなか苦しいものです。
(2)投下するリソースをどうするか
これは費用対効果の見極めが目的です。たとえば、調達担当者の重要な評価指標である、コストダウンへの協力度合いの現状を掌握します。これには、どんな製品やサービスを買っているか、その内容の掌握も含まれます。そして、ここからが重要です。購入している製品やサービスについて、どのような付加価値を見いだす必要があるのかを担当者として理解しなければなりません。徹底的にコストダウンを追求するのか。それとも、安定的な調達を志向するのか。はたまた自社にとって重要なリソースなので、製品開発や企画の初期段階からサプライヤのリソースを活用するのか。
もちろん、他にも様々なバイヤー企業としてのニーズを明確化します。その上で、果たして自社のニーズをサプライヤが実現可能な状態にあるのかどうかを調達担当者として判断するのです。
費用対効果の具体的な判断基準としては、次の二つを押さえます。
a)自分+関係者が対処した時間×時間あたりレートで産出した金額
これは、サプライヤに割いた直接的な時間から費用を類推する方法です。社内やサプライヤを交えた打ち合わせに対して、準備含めどのくらいの時間を費やしたかを、社内関係者に質問してみましょう。ポイントは、質問する相手に厳格な正確性を求めないことです。
b)当該サプライヤについて、調達担当者もしくはその所属部門に課せられた目標・期待される成果
これはa)と異なり効果側の数値です。この数値は、根拠は無くてもかまいません。あくまでも現状掌握ですし、もし設定された目標に問題があれば、まさにこれから調達担当者としてみなさんが修正を加えていきます。
戦略ができあがれば、つぎにその実行に移ります。大きく調達担当者の意志決定に依存するポイントは、その戦術を実行するタイミング、その状況判断です。
一つの製品の発注先を検討する場合、「コストダウン」を達成する場合には、いくつかのサプライヤに分散発注することも、一つのサプライヤに集中して発注することも、いずれの方法も効果的なコストダウンを引き出すことは可能です。ポイントは、発注しなければならない製品のサプライヤが今どんな状況にあるかを的確に掌握し、具体的な行動へと反映させることと、そのタイミングです。
別ないい方では、制約要因をみつけることです。たとえば、一社集中の場合、それが長年継続していれば、そうならざるをえない理由が存在するはずです。その理由が、この世にその製品を供給できるサプライヤが、このタイミングで一社しかいないなら、そもそも「分散」することで競合環境を創出することなどできません。
これは戦術選択上の大きな制約要因です。このような場合、調達担当者がとるべき具体的な戦術は、一社のサプライヤから、どのように有利な条件を引き出すためのリレーションを構築するか。そして同時並行で、新規メーカーの探索をおこなう。また、自社の要求内容を一社以外から購入できる内容に変更します。
戦略を戦術に移すフェーズでは、現場での感覚を動員して試行錯誤を繰り返します。