6章5-3<セクション4~コラム①「CSRに関連し企業が非難を受けた事件例」>

・食品偽装~事例(3):A社 インドネシア使用原料虚偽表示

【事件の概要】

  • 2001年1月3日、インドネシア保健省は、化学調味料が現地工場の製造工程で、イスラム教で禁じられている豚肉から抽出した成分を使用したことを明らかにした。イスラム導師評議会の検査によって、酵素を作るためのバクテリアの培養に、本来使われる牛肉ではなく、豚肉から抽出した成分を使用していたことが判明。実は「ハラム(禁じられたモノ)」だった。
  • 対象商品は「ハラル(神がゆるしたもの)」認証品
  • A社の見解は「豚肉の成分は、製造の媒介物に過ぎず、最終的な製品にはふくまれていない」としたものの、問題工程を豚肉から大豆に切り替え
  • 対象製品だけでなく、出荷製品の全面回収
  • インドネシアの「イスラム導師評議会」から問題工程に大豆を使用した製品にハラル認証をあたえると発表して事態は沈静化
  • 抗議行動に備えて、工場操業は全面停止現地法人の日本人社長は、現地消費者保護法の虚偽表示の疑いで逮捕 (その後、嫌疑不十分で釈放)

 

対象商品のみならず、出荷製品の全面回収をおこなうことで、ブランド失墜の防止に努めました。いっぽうで、やったことが大きすぎました。「豚肉の成分は、製造の媒介物に過ぎず、最終的な製品にはふくまれていない」といった主張は、たとえ正しかったとしても、疑問の払拭(ふっしょく)には繋がりません。

CSR調達に関連する問題が発生した場合、守るべき最優先事項は、企業ブランドです。そういった観点では、問題となった商品のみならず、全ての商品を市場から回収し消費者の目に触れさせず「売れ残っている商品」とのマイナスイメージを回避した英断といえます。

いっぽうで、企業の「豚肉の成分は、製造の媒介物に過ぎず、最終的な製品にはふくまれていない」という主張。これ、一般の消費者にはなかなか理解されません。A社の主張の詳細を調査すると、次の様な内容でした。

  • グルタミン酸ソーダ(MSG)を製造するのは、サトウキビの搾汁から砂糖の原料を取り出したあとの廃液(廃糖蜜)に、グルタミン酸生成菌を繁殖させて、グルタミン酸を生成する
  • グルタミン酸生成菌を培養・保管して、常時使用可能にしなければならず、その菌の保管工程で、菌の栄養となる物質(栄養素分解用酵素)が必要となり、大豆などの栄養素を酵素で分解したものが必要となります。
  • そこで、栄養素分解用酵素に豚の膵臓から抽出したものを使用(アメリカの工場で生産され、A社が購入)
  • 豚の酵素自体はA社の工場には納入されず、酵素によって生成されたできた菌の栄養だけ納入
  • A社の生産工程に入れるときは、菌だけが投入
  • グルタミン酸はさらに精製工程を経て製品化するため、最終製品に豚の酵素が混入している可能性はまったくない

この内容を調査し、理解するにも、多くの時間を要すはずです。さきほどの例と同じく「正論」ですが、わかりにくい「正論」は、事態を収拾せずに、混乱を生じその騒ぎは拡大していきました。

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