6章3-2<セクション2~CSR調達の実践>
・CSR調達とはなにか
それでは、まず日本における「CSR調達」について考えてみます。前述のとおり、企業の社会的責任の範囲は、とても広がっています。
まず、企業の活動範囲がかつてとは違います。従来は、日本国内市場を相手にし、日本国内を拠点にしていた場合は、日本基準がすべてでした。しかし、海外に市場や拠点を求めると、守るべき規範は広がります。
また、IT技術の進化も関わってきます。というのも、良い情報も、悪しき情報も。いまでは瞬く間に広がってしまうからです。パソコンやスマートフォンによって、情報拡散の速度が一気に高まり、短時間で全世界での情報共有も情報漏洩も”可能”となりました。
くわえて、全世界的な潮流として、格差の是正活動があります。皮肉ながら、進出先国での未熟な法整備によって、先進国では違法となるような労働環境・条件が”可能”となり、安価な人件費が実現する側面もあります。しかし超国家的団体(NGO)などの活躍によって、それら格差を是正するよう活動が繰り広げられています。
そのような流れのなかで、企業がいまだに旧来的な倫理観で活動すると、思わぬ痛手を被る場合があります。上記で述べたIT技術の進化によって、強制労働などの現実が全世界のひとたちにさらされることで、不買運動につながったケースもあります。
そこで、強固なCSR調達を実現・実践のために、社内とサプライヤに説得力をもって伝え、実現へ向けた協力を各方面より仰ぐためには、バイヤー企業の経営理念や企業行動指針をベースにしてCSR調達基本方針を設定します。具体的には、以下に示した内容を含めます。
調達・購買部門ではこういった「CSR調達方針」の策定が第一歩です。しかし、ここで悩ましいのは、ISO9001/14001といった基準といえる文書が、現時点でCSR調達には存在しない点です。解決策としては、すでに策定している企業のCSR調達方針を参考にします。はっきりいってしまえば”真似”も、CSR調達の崇高な理想を実現できるためであれば一手でしょう。
前出の図をご理解いただける通り、どんな企業にも共通する普遍的な内容です。したがって業種が異なっても、他社の事例はとても参考になります。
行動指針・規範が設定されたら、次に周知徹底です。これは、サプライヤへ説明会を開催して、取引関係の継続にはその実行が不可欠であると理解を進めていただきます。同時に、調達・購買部門内のみならず社内関連部門への設定された内容の教育を実施します。
指針や規範の内容が素晴らしいほど、社内に理解されていない場合は、逆にリスクが高まります。従業員の認識と、設定された指針・規範の内容のギャップ解消をねばり強く進めます。