6章5-1<セクション4~コラム①「CSRに関連し企業が非難を受けた事件例」>
・人権侵害への非難~事例(1):日本の電機メーカーのサプライヤによる人権侵害
【事件の概要】
- 日本の電機メーカーのサプライヤである日系のマレーシア企業A社に勤務しているミャンマー人の労働者が、給与が不当に差し引かれていると主張
- 「そのようなことをいうと本国に返す」とA社から脅迫
- マレーシアの人権活動家がA社に事実確認を求めるも回答が無く、ミャンマー人労働者の訴えを自らのブログで公表
- 指摘を受けたA社は「人材派遣会社から派遣を受けているため自社には責任がない」とブログを書いた人権活動家を名誉毀損で訴え
- この会社と取引のある日本の電機メーカーに対しても「A社の訴訟を取り下げさせろ」との抗議活動が巻き起こり、日本の電機メーカーのグループ企業にまで抗議のメールが数百と届き、香港では抗議団が事業所に押し掛け
- 一部事実誤認があったことを人権活動家が認め、謝罪広告を掲載することを条件にA社が損害賠償訴訟を取り下げることで和解が成立
この事例は、日本の電機メーカーをみなさんの勤務先と位置づけると、二次サプライヤで起こった問題です。A社と取引をしている事実によって、日本の電機メーカーまで一時的に糺弾される事態へと至りました。この事件から得られる教訓としては、次の3点です。
1.サプライヤであっても、労働者の人権問題への問い合わせを無視できない
この事例では、問い合わせの事実は認識されていました。しかし、二次サプライヤであり、どのように対処すべきかの検討に時間を要した結果、対応が遅れ大きな騒動に発展してしまいました。
最近のこういった問題の指摘では、指摘された内容が事実かどうかにかかわらず「調査すること」「調査結果が事実であれば、真摯に対応すること」を、まず発表しています。調査の結果、事実無根だと判明するケースもあります。
ただ、事実関係の調査している時間も、具体的な企業としてのコメントがなければ「対応の遅れ」と認識され、結果的に企業の対応姿勢に疑問が呈されるとの事実は認識しておくべきです。
2.国内法で判断せず、グローバルスタンダードで考える
人権活動家の主張は、法令上の問題でなく「セーフティーネットから漏れた人たちへの対応を考えるように」がポイントであり、適法かどうかは問題ではなかったとされました。
このように書いてしまうと、ミもフタもありません。しかし、法令を順守しているから問題ないとの主張をおこなう場合は、注意が必要です。
ここで述べる「グローバルスタンダード」に明確な基準はありません。都度、問題が発生したときに、企業の立場ではなく、問題を抱えた立場で考えられるかどうか。自社がその問題解決に影響力を行使できるかどうかとの観点で考えなければなりません。
3.自社を守るのではなく、あくまで中立的な判断と対応が必要
抗議の内容に筋違いだと腹をたてるのではなく、「人権問題に対する姿勢が問われている」と考えなければなりません。今回の事例でも、直接敵に取引をしていないティア2サプライヤで起こった事例です。とはいえ、自社のみが正しいかどうかでなく、当事者が正しいかどうかの判断が必要です。