5章6-6<セクション5~コラム「生産回帰しているのか」>
・目指すべき「生産回帰」
そこで日本企業の方針について述べていきます。とはいえ、これは調達戦略というよりも、企業の生産戦略そのものです。
たとえば、一連の報道で、キャノンやTDKがおこなっている事例がありました。キャノンは「無人工場」、TDKはグローバル展開の「マザー工場」として、日本国内への揺り戻しを画策しています。
二つの事例には、共通点があります。それは、労務費の取扱いです。キャノンは無人工場で、そもそも労務費の発生を極限まで抑えますし、TDKにしても総コストに含まれる労務費の割合を低く抑えると明言しています。
中国での生産を米国に回帰させる場合、労務費の割合は総コストの15%以内であればメリットがあるとの試算結果もあります。そもそも、海外に生産機能が流出したのは、市場価格と労務費のミスマッチで起こりました。
円高局面になれば、円安局面におこった生産回帰と逆の現象が、容易に起こってしまいます。この長期的対応では、為替変動に影響されない確固たる生産体制構築、生産機能の位置付けが必要です。
そのうえで、調達・購買部門がおこなうべき四つ準備を説明します。
(1)調達・購買部門のリソース確保
海外に流出した生産機能が国内回帰すると、生産をサポートする調達・購買への負荷も増加します。そういった業務量の変化に追従できる能力が、日本の調達・購買部門にあるかどうかを見極めなければなりません。上記に示した短期的対応でも、調達・購買部門の稼動率アップで対応できるかどうかを確認します。
(2)サプライヤリソースの確認
サプライヤの生産能力を確認します。為替変動の円安局面では、労務費とともに購入費の為替レートも日本円化を求められます。生産の海外進出と共に、購入品の生産も海外へ移転した場合は特に注意が必要です。
企業では、失われた仕事が戻ってくるかもしれないと、淡い期待は持たないでしょう。工場の稼動率コントロールによって生産回帰はできたとしても、購入品を海外から輸入しなければならないかもしれない。その場合、短期的な対処との前提であっても、生産を回帰させるのが得策かどうか、費用対効果を明確にして判断しなければなりません。