5章6-5<セクション5~コラム「生産回帰しているのか」>
ただし、これまで米国でおこなわれた生産回帰の取り組みでは、次の二つの問題が指摘されています。
(1)回帰しても再現できない生産
生産の海外進出によって、失われた雇用、サプライヤといったリソースが、生産回帰によってもどらずに、多くの部分を最初から構築しなおす必要があったケース。具体的には、労働者は従来であればいわゆる広義のWASP=いかなるマイノリティ集団にも属さないほとんどの「白人」であったものが、移民による非WASPにとって変わられました。
過去の生産にまつわるノウハウの蓄積が生かせず、新たにトレーニングが必要となりました。またサプライヤにしても、製品の転換や、顧客業態の変更によって、かつての取引の復活よりも、新しいサプライヤとの取引を開始したケースが多くなりました。生産回帰といえるのは、生産の海外移転によって失われた売上転移の側面のみで、それ以外は新たな生産の立ちあげと変わらないとの印象を受けました。
(2)サプライヤの不在
この例は、米国と進出先、主に中国の産業基盤の違いに起因します。iPhoneの背面に刻印されている「Designed by Apple California Assembled in China」。これは、開発は米国でおこなって、製造は中国の製造委託業者とのビジネスモデルです。従来中国に代表される新興国での製造委託業者での生産を回帰させる取り組みです。
しかし、米国における製造受託メーカーの多くは、ハイエンド品を対象にしており、中国メーカーへの生産委託を受けられるメーカーが、米国に存在しなかったのです。発注側からすれば、中国への発注は「まる投げ」。そして、どんな製品でも、専門の製造委託業者を見つけられる中国であるからこそ成立していた生産方式でした。
ATカーニーは、回帰指数「Reshoring Index」を発表しており、それによると( http://www.prnewswire.com/news-releases/2014-at-kearney-reshoring-index-down-20-basis-points-year-over-year-from-2013-uncovers-what-manufacturers-are-actually-doing-300009465.html )、次のような兆候がありそうです。
- 2011年のみ生産回帰が顕在化
- 国内への回帰を上回る勢いで輸入が増加
- 国内回帰は増加基調、しかし、「Not so significant(それほど重要ではない)」と結論
国家的取り組みであった米国の生産回帰も「茨の道」であったと読みとれます。回帰というより、新たなビジネスの創造であるの印象を受けます。ここまで、生産回帰にネガティブな側面を見てきました。これから生産回帰が進んだ側面も見てみます。2011年以降、米国に生産回帰したビジネスには、次の五つの特徴があります。
- 試作品(プロトタイプ)
- 量産前の初期段階の製品
- 精密機械など高度な技術を要する製品
- 生産過程を効率化した少量多品種の製品
- 圧倒的な開発~生産スピード
具体例としては、電子機器受託製造サービスのフレクストロニクス(Flextronics)があります。シンガポールの企業ですが、カリフォルニア州サンディエゴにも工場があります。マイクロソフトの家庭用ゲーム「Xbox(エックスボックス)」本体やグーグルのスマートフォンなどを製造。最新型の 3D 金属プリンター、電子部品をプリント基板にCopyright 取り付ける表面実装機(チップマウンター)、X 線のテスト機器などを導入しており、プロトタ イプを迅速に72 時間以内に製造できるのが「売り」です。
こういった例以外でも「都市型製造業」と呼ばれる、サンフランシスコの例があります。いろいろな業種に共通しているのは、商品サイクルを速めたモデルチェンジと、大量生産と差別化した少量多品種生産です。
これから日本で生産回帰がどのように進展するのか、あるいは掛け声だけで終わるのかは、今後の推移を注視する必要があります。しかし、この米国での事例をみるだけでも、日本の製造業と調達・購買部門には多くの教訓を得ることができます。