5章4-2<セクション3~②国内サプライヤへの対応>
・調達・購買部門は空洞化を促進している
調達・購買部員ができることはなんでしょうか。残念ながら大きな流れに抗うことは難しいといわざるをえません。ただ、優秀なサプライヤを潰さない、くらいの姿勢はもっておきましょう。そのためには、あたりまえのことを愚直に実施するのみです。
サプライヤから提出された見積書の金額のみで、国内と海外双方のサプライヤを比較して、発注先を決定してはなりません。見積金額だけで海外サプライヤに発注先を決定したために、さまざまな問題が生じています。
たとえば、海外サプライヤから製品の納入を受ける場合、国内サプライヤからの納入に比べ、輸送に費やす時間は長くなります。空路、海路、陸路での輸送、通関作業と、より多くの輸送プロセスを経過して納入されます。海外サプライヤから製品(モノ)を購入する場合は、輸送リードタイムは長くなります。また、そもそも技術・品質レベルで国内サプライヤに見劣りする場合、安さの裏には、不具合発生率が高まるといったリスクが含まれている事実も忘れてはなりません。
日本国内と海外のサプライヤを比較する場合、見積金額だけでなく、発注者として納入が完了するまでに発生するコストや、金額に含まれるリスクを見越したトータルでの判断が求められます。調達・購買を正しく進め、業績への貢献をおこなうためには、見積金額だけでなく、総合的な判断によって、サプライヤの選定が必要です。
ただ、これは繰り返すと、当然のことにすぎません。ここから、意図的に抽象的な表現をします。あとなすべきことは、サプライヤとともに、自ら(国内の調達・購買部門)の付加価値を考えることです。
調達・購買部門は、モノづくりなど生産活動のために「社内にないリソースを社外から確保する」サービスを社内へ提供して成り立っています。つまり、社内的には調達・購買部門自体が、生産活動やサービスを提供する主体ともいえるのです。であるならば、調達・購買部門そのものが、海外へ移転して、空洞化する可能性もあります。
産業の空洞化は、生産現場だけで起こるものではありません。いろいろな企業、製造業や商社でIPO(International Procurement Office)の拠点をシンガポールに設置する例を多く耳にします。IPOかもしれませんが、調達の拠点となってもおかしくありません。したがって、同じサプライヤを相手にして、同じようなものを買い続けているだけでは、調達・購買業務が成り立たなくなります。
事実、既に一部の調達・購買業務を、LCC(Low Cost Country 労働力が安く低い価格で仕入れられる 発展途上国・新興工業地域)へと移管している企業もあります。ただ見積を入手して発注する業務だけでは、日本人の給料は高くなりすぎているのです。気がつけば、サプライヤだけでなく、自分たちの業務そのものが海外への移管対象となってしまう事態は、すぐそこまで来ています。
そのような事態に陥らないためには、調達・購買の主な仕事である「買う」だけでなく、従来よりも仕事の範囲を少し大きく捉える必要があります。これまでサプライヤを競争させ、有利な購入を実現すれば良かった調達・購買部門も、グローバル化の進展の中で、効率性や優位性を求められるようになっているのです。