2章-1<ケーススタディ②~短納期と品質に悩み、在庫化も反対される>

私は重電メーカーで働き、制御機器のなかで使用するカスタム電源の調達担当者だ。その調達時にいつも問題となるのが納期だ。もともとリードタイムが長い製品が多く、理想的には余裕をもって発注するのがふさわしい。しかし、現実的にはなかなかそうはいかない。サプライヤは標準リードタイムが3ヶ月というのに、1ヶ月を切った時点で注文するケースがほとんどだ。

カスタム電源の発注には、さまざまな問題がある。あまりにも毎日、しかもずっと納期フォローの対応ばかりするものだから嫌気が指していた。とりあえず社内に相談しようと思い、生産管理部門に「あと2ヶ月くらいは前倒しで生産計画を立ててくれ」といったら「馬鹿野郎」と怒鳴られた。「そんなこと、こちらの事情も知らずにいうな」と。

次にサプライヤに「根本的な納期改善できないか」と申し入れた。すると「まずは、そちらの注文に余裕をもたせるのが先ではないですか」と逆提案された。それでも、なんとか依頼を続けても、「物流の問題で、それほどリードタイムを短くできない」という。

さらに話がややこしいところまで飛んでいき「通常よりも急いで運ばせているから、物流コストがアップしているんですよ」と値上げまで臭わす始末だ。

しかも、どのサプライヤとも基本的には、物流コストは見積書のなかに入っているためブラックボックスだ。当然、製品はこちらの工場までサプライヤが運んでくれている。物流の知識はほとんどない。改善のしようもないし、リードタイムの短縮、ならびに物流コストダウンなど、ほとんど知識がないため切り込めずにいる。

さらにこの前などは、短納期で生産してもらったためか、不良品が頻出し、秋田までハンドキャリーで代品を取りに行くはめになった。条件は厳しいものの、なんとか、調達部門としても品質を抑える仕組みができないものか……。

私は「そうだ」と思いついた。もう、いっそうのこと、数千万円分のコストをかけて在庫にしておけばいい。「どうせ、いまは在庫であっても、10年とか20年とか経ったらすべて使うわけだし。まとめて作れば品質も安定するはずだ」。

そう考えたので、サプライヤに申し入れた。「なるほどね」サプライヤの営業パーソンは納得したようだった。「それならこちらの生産部門も納得させやすいね。まとめてつくれば生産効率もあがるし、品質も安定する。なにより、それならコストダウンに協力もできるでしょうね」。

しかし、最後に社内から反対された。とくに直属の課長は「馬鹿野郎。在庫が悪いなんて新人でも知っているぞ! 在庫を増やすことはいけない!」。私は必死に反論した。これによって納期フォローの手間がなくなること、品質も安定すること、コストも安くなること。なにより、いつかは使うだろうからムダにはならないこと。

それでも課長は「在庫はダメだ!」と連呼するばかり。

私と課長のどちらが間違いか。あるいは課長を説得できる理屈はないものか……。

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