3章-1 モチベーションゼロの仕事術

【一幕】・仕事の「こころ」

 

私はそのひとを常に上(まるじょう)と呼んでいた。だからここでもただ上と書くだけで本名は打ち明けない。これは世間を憚かる遠慮というよりも、その方が私にとって自然だからである。私はそのひとの記憶を呼び起すごとに、すぐ上といいたくなる。筆を執っても心持は同じ事である。上流・下流の、上をとったものだが、そのような説明はとてもする気にならない。

私はもういっぽうのひとを常に下(まるげ)と呼んでいた。これも、上流・下流の、下をとったものだが、これも説明を省いておこう。

私が上と知り合いになったのは上が私の本を読んでくれたからである。その時私はまだ駆け出しのコンサルタントであった。私の本が面白く、酒をおごってやるからぜひ来いという端書を受け取ったので、私は多少の時間を工面して、出掛ける事にした。

上は早稲田の政経を卒業していた。もともとは日系の製薬会社に勤めていたが、いまでは外資系製薬会社の管理本部長となっていた。口癖は「儲かる仕事をやれば、仕事は愉しくなるよ」だった。上は、「別に目標なんてなかったなあ。もともと働きたくなかったんだけど仕事やっているうちにこうなっちゃって」と自らの華麗なキャリアを語った。上は、取引先殺し(取引先の営業部長のなかで異常に仲の良いひとがいて、定期的に飲むこと)を極めており、毎週水曜日は17:45のチャイムがなった瞬間に銀座へ消えてゆくことを日課としていた。

無料で最強の調達・購買教材を提供していますのでご覧ください

あわせて読みたい