0章-6 モチベーションゼロの仕事術
また、自分の経験も私の考えに影響を与えている。
私は資材部に配属されたといった。「稀に100点の品質の部材を生産するが、ときに50点の品質の部材を生産する取引先」と「平均的に70点の品質の部材を生産する取引先」では、圧倒的に後者が優れている。前者はたとえば、作業者のばらつきとか、経営者の方針でコロコロとアウトプットが変化する企業だ。それにたいして後者は、そのようなものに関わらず安定した製品を提供してくれる企業だ。
あなたがつきあうとしても、どちらが良いかはあきらかだろう。これを人間に置き換えても同じことがいえると私は思う。調子がよく、モチベーションに溢れているときに100点をとる社員よりも、平均的に70点をとる社員のほうが圧倒的にリスクは少ない。
「この仕事は面白いんで、やる気を出してみました」といわれると、「ああ、このひとは、普通のときは仕事の水準が低いのだな」と思う。「これは凄いから、気合入れてやりますよ」といわれると、「ああ、このひとは、気合が入っていないときは、酷いのだろうな」と思う。それはもちろん、私の天邪鬼ゆえかもしれないけれど、言葉から論理的に考えると、必ずそういうことになる。
プロフェッショナルとは、ときに100点をとれることではない。安定した品質をお客に約束できるひとのことだ。
その意味では、モチベーションゼロで稼ぐことは、むしろ推奨されることだといって良い。目標やセルフイメージは、つねに偉業や成功者が想定されてきた。しかし、ホームランキングだけではなく、地道なヒットを叩き出すバッターも想定されるべきだ。仕事は愉しいにこしたことはないが、愉しくない仕事でも、愉しい仕事がまわってくるまで、着実な成果を淡々とだすよう試みるべきだ。
さきほどあげたモチベーションアップの宣教師たちがあげた三つを再掲してみよう。
- 失敗したら成長のチャンスと思え
- 目標を持て、セルフイメージを高く持て
- 仕事を愉しくしろ
これは、次の通り書き換えられるべきだろう。
- 失敗したら成長のチャンスと思え→思わなくてもいいから、失敗の原因対策をしろ
- 目標を持て、セルフイメージを高く持て→持たなくてもいいから、仕事のムラをなくせ
- 仕事を愉しくしろ→愉しくなくても仕事を淡々とこなす技を身につけろ
これ以降、本書でお話するのは、これらを実現化するやり方と心の持ち方とツール類だ。巷間にあふれるモチベーションアップ策について評価するつもりはない。モチベーションはあったほうが良いかもしれないけれど、なくても悩む必要はない。結局のところ何をやっても自分を変えることができないのであれば、それを肯定する方法を身につけねばならない。