0章-5 モチベーションゼロの仕事術
その後、当たり前のことに気づいた。
私は秋田での苦い思い出について述べた。しかし、問題は私の気持ちがどうなったかではない。その結果を導いた、仕事のやり方こそ問題だったのだ。モチベーションがどうだ、という話ではない。モチベーションをあげ続けていたって、同じ仕事のやり方を繰り返すだけであれば、同じような失敗を重ねるだけだ。自分のモチベーションを立て直すよりも必要なことは、仕事のやり方を変えることだった。
私はもう怒られたくないからという理由だけで対策を練った。バカにされることも、寒さに震えることもイヤだったから、やむなく防止策を考えた。仕事に対する前向きな気持ちではなかった。
私はそこから取引先に納期を遅延させないように、毎週、納期進捗書を配布し、状況を伝えた。同時に、契約書を読み返し、納期遵守の義務を伝え歩いた。また、社内にも無理な短納期発注を防止するよう手順書を作ったり、定例会議を実施したりした。無理な納期でも対応してくれた取引先の担当者には直筆のお礼状をしたためることを自分にルール化した。
すると、目に見えて状況が改善してきた。仕事にモチベーションなんて持たなくても、いや持たないことを前提としても、やる気がないままでも、ただただ淡々と仕事を重ねることの重要性を知った。
そのうち仕事で得た知識を本にすることができた。そこから気づけば4年間で20冊ほどの本を出していた。すべて自分で調べて書いて、ハードワークのなか出版しているから、私のことを情熱とモチベーションにあふれたひとと思ってくれるひとがいる。ただ、会ったひとからは「想像したよりも、普通で冷静なひとですね」といわれることが多い。「どこからそのモチベーションは沸いてくるのですか」と訊かれて「いや、仕事ですから、やっているだけです」と答えても、なかなか信じてもらえない。「やることを淡々とやっているだけです」と答えても、謙遜だと誤解される。
もちろん自分の知識を伝えたいという気持ちはもっている。誰かの役に立ちたい、社会に貢献したい、と誰もが思っているだろう。ただ、その気持ちが本物であればあるほど、モチベーションに頼ってはいけないと思うのだ。
誰かの役に立ちたい、とは自分よりも他者を優先する気持ちのありようだ。なのに、自分自身のモチベーションを理由にしていては、継続・安定した「役」には立たないだろう。