1章-4 モチベーションゼロの仕事術

インターネットが即時に情報をひとびとに行き渡らせるようになってからは、さらに消費者は価格に敏感になった。いまでは、「価格.com」や「楽天」、「Amazon.co.jp」を見てから最低価格を確認することが一般的になってきた。ただでさえ固い紐で守られた消費者の財布が、これらの情報源によって、さらに支出を抑えられることになった。

かつては地方の家電量販店と都市部の家電量販店では、地方の価格が高い側面があった。それは需要の絶対量の違いから仕方がなかった。ただ、インターネットさえ使えば日本の最低価格で商品が手に入る。地方独自の家電量販店やディスカウントショップはなくなり、代わりに日本全国でも低価格を実現できる大手量販店が建ち並んでいった。私はこの流れを必ずしも悪いことだとは思わない。むしろ、歓迎すべきことでもある。ただ、この状況が、さらに低価格競争に拍車をかけていったことは事実だった。

前述の平成9年(1997年)の「公正取引委員会年次報告」から1年をさかのぼった1996年4月にはヤマダ電機・テックランド宇都宮東店のオープン日に1円家電を販売したことを嚆矢とし、その流れは止まることを知らない。

この低価格は、もちろん小売店とメーカーの努力のたまものである。それに、海外から安価な商品が入ってきたことによる競争効果もある。そして、忘れてならないのは、公正取引委員会のアンケートでもあがった「リベート」だった。

家電量販店内を歩いていると、店員が異なる制服を着ていることに気づく。その多くはメーカーから派遣された社員たちで、彼らは労働力を提供し、自社商品(と他社商品)の販売を手伝う。それにたいして「リベート」とは、要するに小売店のソンをメーカーが補填するものだ。

多くの種類がある。

  • 一括仕入割戻:まとめて商品を購入したときに、一部お金をお返しすること
  • 売場確保金:小売店等のなかで、特定のメーカーの売場や特別なセールを実施するときに、メーカーが「そのような場を提供してくれてありがとう」とお金を支払うこと
  • 販売研修補助金:小売店がメーカーの商品を販売するときに、知識がなければ売れないため、売れるように販売員が研修する費用
  • 販売員協力金:小売店の販売員にモチベーションをもって売ってもらえるように、メーカーが小売店に支払うもの
  • 他店追従値引き:他店が自店よりも安く販売している商品があった場合は、その差額を支払うもの
  • 運動部設立協賛金:販売店の社員たちが健康な体で販売に望むことができるように、メーカーがスポンサーとして協賛するもの

など、多くの科目が「発明」されている。小売店はこれらをメーカーに要求し、値引き販売に補填することでなんとか商売を成り立たせている。また、オープン特価、バーゲン特価の少なからぬ補填も、同じくメーカーからのお金によるものだ(詳しくは、拙著「1円家電のカラクリ 0円iPhoneの正体」(幻冬舎)にまとめた)。

これは、小売業者が圧倒的なパワーを使ってメーカーを抑圧していると見ることもできる。ただ、私はむしろ、このような「努力」で私たちが安価に家電等を購入できる側面に注目したい。そしてそれは、そのような「努力」抜きでは、業態自体が成立しないことでもある。

では、なぜ私が流通構造の変化とともに、リベートに代表される値下げ合戦に注目したのか。それは個人の仕事や精神のありように影響を及ぼしているからだ。そして、モチベーションなるものに関係するからでもある。

無料で最強の調達・購買教材を提供していますのでご覧ください

あわせて読みたい