1章-5 モチベーションゼロの仕事術

ここで、もう一つの見方からこれらの現象を注目したい。家電量販店では、本来の価格以下で消費者に商品を販売していた。メーカーはお金を払って商品を納め、小売店も実質上はお客にお金を払って商品を販売する。消費者はお金をもらって商品を買う。まるで消費と販売のお金が逆転している。

私はここに「逆転経済」の成立を見る。

構造は次のとおりだ。

1.日本経済が停滞し、消費者がモノを買わなくなった、商品が売れなくなった

2.消費そのものが労働になった

3.消費によってお金をもらう消費者が、労働によってお金を得ることになった

まず、1は前節でも述べてきたとおりだ。通常であれば、小売店はメーカーから仕入れた商品にたいして手数料や利益を加算して、それをお客に販売する。しかし、日本は右肩上がりの経済を終え、それではなかなか商品が売れなくなった。価格競争が熾烈化し、本来の価格以下でしか販売できなくなった。

お客から適正な対価をもらえない以上、下のメーカーに補償を依頼するしかない。そして、メーカーはさらに下のメーカーに補償を依頼するしかない。メーカーの調達部門は「一時金」と呼び、下の取引先から少なからぬ金額を得る。あるいは、「毎期のコスト削減」の名目で、これまで100円だったものを、90円に。90円だったものを80円に……、とその価格を引き下げ続ける。

糸井重里さんの名コピーに「ほしいものが、ほしいわ。」がある。これまでであれば、「ほしいもの」があったところ、消費者は「ほしいもの」がないことに気づいた。そこらへんの男性をつかまえて、訊いてみればいい。「何かほしいものありますか?」と尋ねたところで、多くのひとは答えに詰まる。

いま多くのひとが欲しているのは、商品ではなく、知識でもなく、せいぜいSNS、Twitter、Facebook、携帯電話に見られるように、「ひととのつながり」だ。オンラインゲームのアイテムが売れるのも、単にゲームをクリアしたい欲求からのものではなく、クリアすることによってサイバー上で崇められ、未知なるひとたちとの交流を目的にしていることは注目に値する。また、昨今では、楠木建さんの書籍『ストーリーとしての競争戦略』(東洋経済新報社)がヒットし、企業のマーケティングにストーリーが重視されはじめたのも、消費者が商品ではなく、物語=社会とのつながり、を重視してきたことを物語っている。

無料で最強の調達・購買教材を提供していますのでご覧ください

 

あわせて読みたい