6章-5 モチベーションゼロの仕事術
地は、「もうロックは終わりだ」といって髪を切り、第43志望の機械メーカーに就職することになった。40社のマスコミに落ち、たまたま拾ってくれた数社からそれなりに知名度のある会社を選んだ。それでも地は、まだ音楽業界とマスコミへの夢を捨てきれず、第二新卒として入社できないかを真剣に調べつづけた。
都は、早々と外資系石油会社に就職を決めたあと、彼女とともに本社のあるフランスに卒業旅行にでかけた。都は、卒業までに貯めた200万円で彼女のぶんの旅費を出してあげ、パリのカフェ「ドゥ・マーゴ」でエスプレッソを飲みながら黄昏をながめていた。
地は、その当時つきあっていた彼女と、おなじくパリへの卒業旅行にきていた。マスコミに就職できなかったことから、自分の才能を認めないギョーカイに嫌気がさし、レアもののCD300枚をディスクユニオンに売却して、旅行代金にあてたのだ。地は行きの飛行機のなか、軽薄かつ大衆文化に染まった日本企業では地の才能を活かす道がないことを彼女に説きつづけ、「まあ、いまの音楽シーンみたいに、売れ線に迎合するぐらいだったら、就職しないほうがマシだ」と強がりさえくりかえした。
地方出身の地は、外国ではいたるところで爆破事件が頻発し、夜中に歩けば殺されると強く信じていたため、ツアーで観光地をめぐる以外は出歩かなかった。その態度にあきれた彼女は帰国後、成田空港で別れを告げた。
地は、「才能がある奴は、なかなか理解されない。ぼくみたいにね」とつぶやいた。
それから幾星霜。
彼らは就職し、立派な社会人となっていった。
8年後、都は著書「サルでもわかる経済教室~もし製造業の派遣社員がコトラーを読んだら~」を書き、10万部のヒットを飛ばしていた。いっぽう、地は自己啓発本と成功法則にハマり「モチベーションをグングン高める方法」「居眠りしながら金持ちになる方法」「1秒間であなたは生まれ変わる」などといった書籍にお金をたれ流していた。浪費のために妻に迷惑をかけつづけているくせに、「すべての経験に意味があるんだよ。これまで失敗せずに成功したひとがいるか?」。「失敗すればするほど、俺は成功に近づくんだ!」と叫び続けた。
そこは、地はビになり、都は金になった世界だった。