1章-12 モチベーションゼロの仕事術

しかし、それにしても、なぜ私たちは時代の影響をこれほど受けるのだろうか。自らが自発的に持ったはずの感情についても、しょせん時代の創作物にすぎないのだろうか。

ひとはみな、個性的であることを願う。ただ、その個性が時代の影響を受けていることに気づくひとは少ない。またひとの悩みも、時代を反映したものが多い。いまではモチベーションがない、という悩みを持つひとが多い。それは平凡な悩みである。ほんとうに個性的であるとするならば、表面的な服装や性格ではなく、「モチベーションがないので仕事が進む」くらいのことはいってほしい。「やる気がないので、仕事で成功しました。やはり仕事は技術ですね」とでもいえば、一つの個性だろう。

また時代が右肩下がりのときなら、周囲を呆然とさせるくらいの楽観論を述べてほしい。みなの意見が統一されている現状は、一種のファシズムさえ感じる。いや、時代の状況や空気に流されるのではなく、その一つひとつを疑い抗うことこそ自由の本質ではないかと思うほどだ。

私は以前、書籍のインタビューで「私は仕事が嫌いなので、上手くいきました」と語ったことがある(柴田英寿さん著『サラリーマンのための「会社の外」で稼ぐ術』・朝日新聞出版)。「嫌いなのに人並みにできているということは、やり方と技術さえ考えれば上手くいくと考え実践してきました」といった。これは当時の本音だった。私が資材部に配属されたことは以前に述べた。その仕事が好きになれなかった。しかし、粛々とやっていれば、普通程度の成果は出た。好きではなく、やる気がないのに、「たんたんと仕事をする」事実だけで普通の成績、人並みになったのだ。ということは、仕事を少しでも工夫すれば、すぐに他を抜きん出ることができるだろう。仕事が好きであれば、その仕事に没頭すること自体に熱中する。ただ、嫌いであれば、対象を客観的にとらえ、上手くこなせるようになるだろう。むしろ、仕事はもともと好きではないほうが上手くいくのではないか。

そう率直に語ったつもりなのに、収録された分は、まっとうな内容になっている。編集者も、混乱したのか、私の発言が謙遜ゆえと考えたせいなのかはわからない。「あなたの意見は面白すぎて使えない」といわれた。私は、インタビューを受けることも好きではない。だから、そこから相手が記事にしやすい内容は何かと考え、記事にしやすい内容をたんたんと答えたことを覚えている。やる気がないがゆえに、早く終わらせたくて「ここで得たいコメントは何ですか?」「どういうコメントだと次につながりますか?」と訊いて、自分の意見と矛盾しない程度に紡いでいった。

このように書くと、「そんなにやる気のないひとのインタビューを読みたくない」と思うひともいるだろうが、このインタビューが好評だったようで、その編集者とはその後に本を作った(『レシートを捨てるバカ、ポイントを貯めるアホ(朝日新聞出版)』)。これもやる気がなかったゆえの成果だろう。

かつてKY(空気が読めない)が流行したこともあったものの、空気を読み過ぎると自分の仕事や生き方にも悪影響を及ぼすことがある。それに、読むべき空気などほとんど存在しない。

時代に流されず、黙々とたんたんとやるだけだ。

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