8-1.電子調達 ~そんな電子調達に騙されて! 「新しい購買のIT活用法」~
「あのときの監査は一体なんだったんだよ!」
上司は目の前のバイヤーに向けて叫び声を上げた。あるサプライヤからの不良品納入の報告を受けたときのことだった。今回もそのサプライヤのトラブルで工程に遅れが生じてしまったのだ。さらに悪いことに、そのサプライヤは、不良品納入が初めてではなかった。しかも、何度も何度も同じことを繰り返していた。
その製品を担当していたバイヤーは、度重なる不良品納入対策会議に呼ばれては、くたびれていた。何度もサプライヤに要求する「納入改善書」やらなんやらの書類群。最初は二度とこのような不具合を出させないようにと奮起していたのだが、じきに疲れてしまった。そして、その書類が全く意味をなさないと証明するかのように、不具合は解消することがなかった。「自分の手間を少しでも軽減したい」。そう思ったバイヤーは、社内の品質関係者を率いて、そのサプライヤの工場へ監査に出かけたのだ。
そして多くの改善依頼点が出された。しばらく経ってから、現場を確認しに出かけたバイヤーはその対策をそのサプライヤが行っていることが確認できた。そこで、監査チームはこう社内に報告書を提出したのだった。「監査時の指摘項目の改善により、工場体質が向上したと結論付ける」と。まさにそのすぐ後に、前述の納入不具合が出たのだった。しかも、前回とほぼ同じような不具合内容だった。当然のごとくバイヤーの上司は叫んでしまった。「あのときの監査は一体なんだったんだよ!」そのバイヤーは私だった。
新規で参入させたサプライヤで起きた数々の不具合が私を襲っているときのことだった。だけど--、本当はそんな不具合が起きることなど考えることもなかった。そのちょっと前までは。不良品の納入が始まる数ヶ月前。そのサプライヤは拍手とともに迎えられていた。リバースオークションを行っているときのことだった。既存のサプライヤやその他国内外のサプライヤに参加してもらい、最安値を競わせるあれだ。参加サプライヤは画面の前で待機する。そして時間が来たら開始だ。
バイヤー側の要求に満たす自社製品の価格を入力していく。制限時間は2 時間だった。価格は、どんどん下がっていった。「これまでのコストは一体なんだったんだろう」、とつい疑問に思ってしまうほどコストダウンが達成できたかのように見えたのだ。そして、最終的に劇的に安いコストを提示し、晴れて採用決定となったサプライヤがいた。それが前述のサプライヤだった。リバースオークションの一部始終を見ていた数人のバイヤーは拍手を持って歓迎した。「よかった。こんなに下がるとは」。もちろん私も含め、無邪気に喜んでいたのだった。