2-1.購買分析 ~赤鉛筆購買から黒鉛筆購買へ 「新しい購買の超コスト分析法」~
「それは俺の仕事じゃない!!」
そういわれたバイヤーは驚いた。自分のことを「何も知らないバイヤー」とは思っていたものの、普通の質問をしただけのつもりだったので、そう冷たく言われたことにショックを受けたのだ。相手は支払い管理の担当者だった。そのバイヤーが入社一年目のこと。
そのバイヤーは「俺の仕事じゃない」というセリフを初めて聞いた瞬間でもあった。そのバイヤーは「購買なんてところに配属された」というコンプレックスの裏返しに、勉強だけはやっていた。支払条件なんてものを変更することによって有利なコストが引き出せる可能性がある、とバイヤーはある参考書で読んでいた。
たまたま担当することになったサプライヤから、そのバイヤーに「最近資金繰りが悪いんで支払条件をよくしてくれないでしょうか」という申し入れがあった。「手形のサイトを変更する」。なるほど、とそのバイヤーは思った。これこそ、本で読んだ内容じゃないか、と。そのとき会社の支払条件なんてものは簡単に変わらないと知らなかったそのバイヤーは「いい提案だ」と単純に思ったのだった。しかし、支払い管理の担当者に相談しに行ったとき、相手は「入社一年目のバイヤーが何を言うか」と言わんばかりに担当者は、こう叫んだ。
「支払条件の変更なんて知らねぇよ。それは俺の仕事じゃない!!」しかも、そのバイヤーはそれからも幾度となくこの類のコメントを聞くことになる。そのバイヤーは私だった。何も知らなかった入社一年目。今思えば、最も「会社の常識」を知らなかったがゆえに、色々なことを試した時期であった。
例えば前述の支払条件変更。その後も、多くの購買に関する講座で「支払条件を変えることによってコストダウンを試みましょう」という内容を何回も聞いた。しかし、実際はそんなことをやってコストダウンをはかったバイヤーなどどこにいるだろうか?「そんなのどうせ無理だ」と皆は思っているからだ。前述のサプライヤは資金繰りに困っていた。しかし私の元には毎年毎年のコスト削減が課されていた。当然、このサプライヤからのコスト削減、割戻金の回答は思わしくなかった。
「こんなに業績が悪い会社から、毎期のコスト削減回答を得るのは不可能ですよ」。私は決算報告の資料も提示して上司に説明したが、返ってきた返事は「それでも、粘り強く交渉を続けろ」だった。つまり、理由はないが力を背景とした交渉をしろ、ということだった。「理論なきところに購買の存在意義がある」。
そういうことだった。私は笑うしかなかった。だけど私はそういう常識に無知だったから、ここのサプライヤへの支払条件変更を試みた。幾度も電話をたらいまわしにされ、最終的に何枚も何枚もの支払い変更手続き書を書き上げ、このサプライヤの支払条件を良くした。そして、結果としてその金利差以上のコストダウン率を達成した。さらに、それをマニュアルに残した。