1-5.購買調達戦略 ~戦略なき者は去れ 「新しい購買のシンプル戦略立案」~

そう思った私は、早速部長に提案してみることにした。購買部変革のプロジェクトを成功させるには、年輩バイヤーからの人望も厚いこの部長をまず説得する必要があるからだ。私は、いてもたってもおられなくなり、すぐさま部長室に入り込んだ。

「部長、購買部変革のためにやらなければいけないことは、まず全員に担当品種の戦略を構築させることだと思います」
「・・・戦略?そんなこと毎年やってるじゃないか。A3の紙に書かせて、課ごとに企画課の方に提出させているだろ」
「あれじゃ全然ダメなんですよ」
「ダメって、どうすりゃいいんだよ」
「あれは、上から無理やり書かせているだけでしょ。だから、『戦略』とかいいながら、これまでの現状維持か、購買の独りよがりの資料になっています。そして最後には『最先端の技術を持ち、環境に優しい製品をリーズナブルに調達しつづける』とかいった誰でも書ける結論になっている」
「・・・といったって、あんなもんだろうよ。戦略資料なんて」
「いや、だから。そういうところに今までの戦略が無意味だった理由があるんです。『あんなもん』であれば、そもそもあんな資料を作らせなけりゃいい。そうでしょ?」
「いや。別に無意味だったとは思ってないが・・・。じゃ、どうすりゃいいのか言って見てくれ」
「簡単です。これまでの戦略構築で抜けていたことを部員にやってもらうだけでいいと思います」
「抜けていたことって?」
「『宣言』です。どんな戦略も、個々人で持っていただけでは意味がありません。社内で共有されなきゃダメなんです。そこで毎年一回、バイヤーの立てた戦略を設計や生産管理のメンバーの前でプレゼンさせて下さい」「購買戦略を、なんでそんな他の部にプレゼンする必要があるんだ?」
「まさに、戦略だからです。これまでの戦略は内部に閉じこもるので、全くと言っていいほど他者の理解可能性や現実性を無視したものでした。それを他部に見せるとすると、今までのような曖昧な表現や、言葉だけ立派で中身のない戦略は語れません。『ひらがな』で他者に理解させる必要が出てくるからです。さらに、他者への公開を前提とすれば、意味のあることしか考えることができません」
「他部にか・・・」
「宣言させてください。他者にコミットしないことはたいていの場合、成り立ちません。しかも、それが購買を外にアピールする機会にもなるんですよ」

部長はブツブツ言った後に、しぶしぶ

「購買部変革のプロジェクトということなら・・・」

と承認してくれた。部長は、戦略を語れば購買部のレベルの低さが推し量られるのでは、と危惧しているようにも見えた。おそらく設計や生産管理から、矢のような質問が飛ぶだろう。「そんなことも分かってないのか?」と皮肉を言われることもあるだろう。でも、そういうレベルならまず、その醜さを明らかにしたほうがいい。絶望から始まらずして、どうやって変革などできるものか。そういう試練を経ることで、きっと購買部のメンバーは、本当に役立つ、しかも地にかなった「ひらがな」の戦略を考えるようになるだろう。カタカナばっかりの高尚に見える戦略など消えてしまえ。・・・そう思っていたとき、パソコンにメールが届いた。部長からだ。TOは各課の課長宛て、私はCCだ。

「戦略業務について、話したいことがありますので、明日13:30 部長室前参集下さい」

よし。私は思った。世界一の購買部への一歩を踏み出した。

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