7-1.開発購買 ~あなたと一緒に仕事がしたい! 「新しい購買の設計者意識革命」~
「何だったんですか、あれは。ねぇ」
電話越しの女性はバイヤーに対して、ぼやきの声を発した。いや、怒りにも近い声だった。その女性は、あるサプライヤの営業マンの事務補助業務をやっている女性だった。有能なアシスタントであり、可憐な女性。その女性がバイヤーに対して、珍しく愚痴をこぼしてしまった。これまでは何でも快く引き受けてくれていた女性だった。
バイヤーが依頼した資料を提出したあとに、全く同じ内容をバイヤーの属する企業の設計者から何度も何度も質問を受けたからだ。一度答えたことを、二回答えなければいけないほど面倒なものはない。「そんなの購買の方に提出していますよ」と言っても、質問は今までの通り鳴り止まない。「購買に提出したあの資料は一体どうなっちゃったの?」その女性は思った。そう思っていても、質問は止まらない。かといって、答えてあげないわけにもいかない。多くの二度手間。時間だけが費やされていく。
そしてある一線を超したときに、そのアシスタント女史はバイヤーに対して叫んでしまったのだ。「ねぇ、あの作業ってなんだったの?ねぇ、教えてくださいよ」バイヤーは何より女性を失望させたことに後悔した。このバイヤーは私だった。原因は、そこから遡ること数ヶ月前のことだったと思う。私の企業は、購買業務の電子化の一環として「標準部品の電子カタログ化」というのを始めた。
説明は簡単だ。購買が自社製品に使うための標準部品を選定。そして、それらのカタログや最小ロットや価格を社内のイントラネットに掲載することになった。設計者はまずこれを見て、新製品に使用する部品を決定せよ、というわけだ。プラットフォームに一括して情報をアップロードしてしまえば、情報の入手が効率化でき、さらに部品の標準化も進む。その先に、開発購買の実現がある。
まさに一石三鳥というわけだった。当時、私が担当していたのは半導体。異常な数があった。「標準部品」と選定するにも、それぞれの部品は別の役割がある。A という高性能部品が必ずしもB という部品を代替することが出来ない。逆の場合も同じことだった。完全に同じ機能のものなど、単純な部品を除いてほとんどない。だから、私は会社の指示にしたがって、相当数の部品を「標準部品」として認定してしまった。
そして、多くのサプライヤはその指示を受け、莫大な数の部品のカタログをPDF化し、価格をまとめ、ロット数をまとめ私に提出する羽目になってしまった。サプライヤのうち真面目な人ほど、その雑務に追われることになった。私は届いた資料に一つ一つ目を通し、時間をかけながら社内のweb にアップロードしていった。量が多すぎて、一つのサーバーでは処理できなくなったほどだった。
そして、やっと無理矢理に完成させた社内web ページ。設計者はそれを見て設計しだすはずだった。問い合わせも少なくなるはずだった。