4-1.ソーシング ~どん底からの逆転ホームラン 「バイヤーはすごい買い方の実践で会社の顔になってみろ」~
「なんでそんな消しゴムを買ったんだ!!お前が選んだのか!!」
隣の購買課長は常に怒っていた。部下に対して、通常より10 円高い消しゴムを買うことすら許さない。一見安い買い物をしているように見えても、そのプロセスにとことんこだわる。一体どうやってこの購入メーカーを決定したのか。そしてどのような交渉プロセスを実施したのか。なぜそのメーカーから買わなければいけないのか。
その答えが「いやぁ通常ここから購入しているものですから」などと言おうものならば逆鱗に触れる。正直、私は違う課であったが、その執拗さに異常すら感じていた。なぜこの人はこれほどまでに細かいところにこだわるのだろうか。周りの人たちも含めてみんな、そう思っていた。あるときに私はその課長と酒を飲む機会が有り、酔った勢いで訊いてみた。「なぜあなたはそんなに細かいことにこだわるのですか」と。
するとその課長はこう述べた。「納得できないものは買わない、少しでも高いものは買わない、と社内と社外に認知させるためだけだよ」と。私ははっとした。酔いが醒める思いだった。確かにそうなのだ。今行っている取引のいかに多い部分が「慣習」に従っていることか。そして、馴れ合いのまま高い買い物をしているか。
いかに何の疑いもはさまないまま売買を続けているか。そういうことを思い知ったのだった。多くの会社で、多くの部門で、乾いたタオルを絞るような努力が続けられている。設計者たちは1グラムでも軽い製品を作ろうと、あるいは少しでも早い処理速度の製品を作ろうと日々奮闘している。生産現場では、ほんの少しの無駄も許さぬように、血のにじむような改善努力が続けられている。
バイヤーだって、熱意のある一部の人間たちは少しでも安く買おうと、少しでも品質の良いもの買おうと努力している。そのくせに、一方では役員には高い給料が支払われたり、カラーコピーはし放題、おまけに不要な社員がたくさんいる。若手バイヤーはそのような状況を知るにつけ、自分の行っているコスト削減活動をときに虚しく感じるものである。
自分がせっかく減らした10万円が、一体何の役に立つのだろうかと疑問に思わずにはおられないのだ。しかし、あえていうならばその地道なコスト削減の活動が社内と社外に対するアピールになっていることを忘れてはいけない。
例えば、サプライヤに対しては「この会社にはチャントした見積りしか出せないな」と購買部門が思わせることができるか否かで、だいぶ長期的なコスト抑制が出来るかどうかが決まってくる。社内に対しても、徹底した態度を見せることによって、無駄な買い物を増やすことはなくなり、コスト意識を浸透させることができるだろう。