1-11 変化する調達購買担当者の役割
調達購買部門の直面する変化は、バイヤー業務にも大きな影響をおよぼします。購買業務以外の「買わない」バイヤー業務の重要性が高まっているのです。
☆教育できるバイヤー
調達購買業務はQ:品質、C:コスト、D:納期でいかに有利な条件で購入が重要でした。QCDで有利な条件を引き出すノウハウは引き続きバイヤーの中核スキルです。しかし、どうやって有利な条件をサプライヤーから引き出すのか。具体的な方法論が必要です。海外進出し調達購買業務を円滑に立ち上げるには、現地の状況を的確に掌握すると同時に、国内の調達購買業務で培ったスキルやノウハウを進出先へ伝える取り組みが必要です。
伝えるべきスキルやノウハウには、一般的に調達購買部門として必要な内容もあれば、独特な慣習や方法論もあるでしょう。国内の調達購買部門との連携し相乗効果の抄出を考えるとき、一般的なセオリーと、企業独自の慣習・ノウハウをどのように共存させ、日々の業務に生かしていけるかがポイントです。
企業独自のスキルやノウハウを暗黙知のままにすると、進出先の運営に様々な問題が発生させる要因になります。海外進出では、ハードとソフトの両面でのサポートが不可欠です。調達購買部門に求められているのはソフト面、企業に根差したノウハウを形式知化し伝承を積極的に行いましょう。
☆仕組みを作れるバイヤー
バイヤーは企業内の情報システムを活用し業務を進めています。例えば注文書発行に必要な作業も、調達購買部門で最低限の作業を行えば注文書が発行されるはずです。調達リードタイムや必要納入時期も登録され、関連部門に共有化されているはずです。
調達購買部門は、海外進出先の情報システムを構築に積極的に関与します。国内業務との連携を考えたとき、できるだけ同等のシステムを実装する前提で業務内容を検討します。
社内システムの立ち上げを、情報システム部門の業務と考え任せるのは間違いです。国内で立ち上げられた情報システムをユーザーとして活用してきたのはバイヤーです。情報システムを使いこなして獲得したノウハウこそ効率的な業務の源泉です。情報システムのユーザーとして獲得したノウハウを、海外進出先の仕組み構築に活用し、業務の効率的な運用の実現に貢献します。
☆現状を改善するバイヤー
海外サプライヤーと比べると、弛むことのない継続的なコスト削減の取り組みは、国内サプライヤーに明らかな優位性があります。国内サプライヤーの特徴であり、日本企業の優位性の源泉である継続的なコスト削減活動を、海外サプライヤーでも実践し成果を獲得できれば、重要な優位性の確保につながります。
改善の取り組みは、サプライヤーとの間でのみ行うものではありません。海外進出先の拠点では、国内の調達購買部門の改善点を反映しつつ、更なる改善を継続的に行わなければなりません。
進出効果を最大化するためにも国内と海外拠点の間で、改善効果やコスト削減成果の報告会といったノウハウの共有化が必要です。多国に展開するグローバル企業は、頻繁に各国のノウハウを共有する機会を設け、グローバルな全社のレベルアップに取り組んでいます。
海外進出先の従業員モチベーションアップにも、現地で改善を行った成果を国内でも評価しましょう。国内、海外拠点全体で、成果を出した取り組み事例の横展開が欠かせません。かつて海外進出は、現地の安価な労働力活用が主な目的でした。しかし新興国の経済規模の拡大は、質的な進化も創出しています。日本のお家芸である継続的改善の取り組みをグローバルに展開し、進出先で培ったノウハウと融合して調達購買部門としてグローバルな企業競争力の強化を目指しましょう。