CSR調達の実践 5

今回は、前回に引き続き、CSRが失われた事例と、学ぶべき教訓をお伝えします。

 

(3)事例3 品質・安全

  • インドの製品誤使用によるメーカーへの批判

【事件の概要】

・1990年代に同社の超音波画像診断装置が、男児誕生が極端に好まれるインドと中国で、胎児の性別判別に利用され、女児の場合は人工中絶が引き起こされるようになった。両国の政府より指摘

・男女児の人口バランスが急速に崩れている。この原因が超音波画像診断装置の普及にあり、違法使用に対する十分な防止策を施していないとして、複合企業ゼネラル・エレクトリック(GE)など販売会社が訴えられている

 

※インドの慣習

・娘の結婚時に多額の持参金が必要とされるヒンズー教上の慣習などから、男児の誕生を望む傾向

・そのせいで男女比の不均衡は広がっており、0~6歳の男児1000人当たりの女児数は、91年の945人から2001年には927人に減少

・インドでは、94年に出生前の性別検査が法律で禁止

・経済の発展に伴い女性の地位が上昇し、不均衡は改善しつつある

 

  • この事例から読みとれる教訓

 

この事例は、製品がメーカーの意図とまったく異なる使用方法によって引き起こされました。事件の発生を受け、製品を販売していた企業は、次の様なコメントを発表します。

 

「自動車が人混みに突っ込んで死者が出ても自動車メーカーが批判されないように、非難されるべきは倫理のない医師で、機材メーカーではない」

 

まさに正論で反論しました。この反論は「誰がおこなったか」がポイントです。この事件は、現地の「慣習」によって引きおこされました。この反論をグローバル企業である製造元の幹部がおこなっていたら「価値観の対立」といった問題へと発展し、事態の収拾はかなわなかったかもしれません。この発言は、インドの合弁企業のトップによっておこなわれました。同じ価値観を持つ人間の発言であったために、正論が功を奏しました。

 

CSR調達が失われる事例では、なかなか正論が通用しないケースが多くなります。これが、企業おける対処を難しくし、対応を遅らせ、事態を悪化させてしまいます。しかし、使い方によっては、正論を活用する選択肢も十分に効果を発揮するのです。

 

(4)事例4 食品偽装

 

  • A社 インドネシア使用原料虚偽表示

【事件の概要】

・2001年1月3日、インドネシア保健省は、化学調味料が現地工場の製造工程で、イスラム教で禁じられている豚肉から抽出した成分を使用したことを明らかにした。イスラム導師評議会の検査によって、酵素を作るためのバクテリアの培養に、本来使われる牛肉ではなく、豚肉から抽出した成分を使用していたことが判明。実は「ハラム(禁じられたモノ)」だった。

・対象商品は「ハラル(神がゆるしたもの)」認証品

・A社の見解は「豚肉の成分は、製造の媒介物に過ぎず、最終的な製品にはふくまれていない」としたものの、問題工程を豚肉から大豆に切り替え

・対象製品だけでなく、出荷製品の全面回収

・インドネシアの「イスラム導師評議会」から問題工程に大豆を使用した製品にハラル認証をあたえると発表して事態は沈静化

・抗議行動に備えて、工場操業は全面停止現地法人の日本人社長は、現地消費者保護法の虚偽表示の疑いで逮捕 (その後、嫌疑不十分で釈放)

 

  • この事例から読みとれる教訓~良き例と悪しき例の混在

 

・良き例

対象商品のみならず、出荷製品の全面回収行きが落ちる/売れ残るといったブランドの失墜を防止

 

・悪しき例

「豚肉の成分は、製造の媒介物に過ぎず、最終的な製品にはふくまれていない」といった主張は、たとえ正しかったとしても、疑問の払拭(ふっしょく)には繋がらない

 

CSR調達に関連する問題が発生した場合、守るべき最優先事項は、企業ブランドです。そういった観点では、問題となった商品のみならず、全ての商品を市場から回収し消費者の目に触れさせず「売れ残っている商品」とのマイナスイメージを回避した英断といえます。一方で、企業の主張だった「豚肉の成分は、製造の媒介物に過ぎず、最終的な製品にはふくまれていない」との主張。これ、一般の消費者にはなかなか理解されません。A社の主張の詳細を調査すると、次の様な内容でした。

 

・グルタミン酸ソーダ(MSG)を製造するのは、サトウキビの搾汁から砂糖の原料を取り出したあとの廃液(廃糖蜜)に、グルタミン酸生成菌を繁殖させて、グルタミン酸を生成する

・グルタミン酸生成菌を培養・保管して、常時使用可能にしなければなりませんが、その菌の保管工程で、菌の栄養となる物質(栄養素分解用酵素)が必要となり、大豆などの栄養素を酵素で分解したものが必要となります。

・栄養素分解用酵素が豚の膵臓から抽出したものを使用(アメリカの工場で生産され、A社が購入)

・豚の酵素自体はA社の工場には納入されず、酵素によって生成されたできた菌の栄養だけ納入

・A社の生産工程に入れるときは、菌だけが投入

・グルタミン酸はさらに精製工程を経て製品化するため、最終製品に豚の酵素が混入している可能性は全くない

 

この内容を調査し、理解するにも、一般消費者と近い立場の私には、多くの時間を要しました。さきほどの例と同じく「正論」ですが、わかりにくい「正論」は、事態を収拾せずに、混乱を生んでしまうのです。

 

(5)事例5 サプライヤー

 

  • 太陽光発電パネル不正販売事件

 

【事件の概要】

・子会社のサプライヤーで生産した太陽電池パネルに、顧客に説明したよりも出力の低いパネルが混じっていたと発表

・対象期間中に販売した23,460枚のパネルのうち、5,476枚のパネルは、説明した数値よりも、3~5%低かった

・「高性能パネルの生産が追い付かず、性能が低いことを知りながら出荷を継続いていた」と社長が記者会見で説明

・問題発覚は内部告発。太陽光発電所の所長会に告発

・所長会の再三調査要請に対して、「そのような事実はない」と解答

・問題発覚当初は「子会社の独自判断でおこなったこととはいえ……」

・実際は、販売子会社が出力数を示すステッカーの貼り替えを実施

・根本的な原因は、サプライヤ(子会社)の生産能力不足

・子会社のみならず、親会社、販売会社ぐるみが明らかに

 

  • この事例から読みとれる教訓~サプライヤーはスケープゴートにできない

 

・「サプライヤーがやったこと」でバイヤ企業の責任は回避できない

(この例では製造子会社)

・時の経過と共に新たな事実が発覚

「その様な事実はない」⇒「子会社がやった」⇒「組織ぐるみ」

・わからないときは、正直にそう答える。「事実はない」との証明はむずかしい

・被害者の救済と、問題の事実関係究明を同時並行的に実施

 

調達購買部門の現場では、もっとも想定される事態です。この実例では、サプライヤーといえどもS社の製造子会社ですから、結果的に「組織ぐるみ」となってしまいました。またこの事態に至った原因が、生産能力不足だったことで、親会社まで累がおよぶ結果になりました。資本関係のない別法人であったとしても「サプライヤーがやったこと」は、まったく理由にもならず、説明に足る根拠にはならないと肝に銘じなければなりません。

 

こういった事態を回避するためには、CSR調達を従来の調達購買管理とは別にしておこなっては防げません。従来の調達購買管理に、CSR調達の内容を盛り込みます。具体的には、サプライヤマネジメントの中で、CSR調達の視点を盛りこみ、かつ実行状況を、サプライヤー監査の中で確認します。

 

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