CSR調達の実践 3
前回まで、CSRに関する日本と欧米の違いについて述べました。今回から、具体的なCSR調達の実践プロセスを述べます。これから述べるCSR調達は、グローバルマーケットにおける事業展開を想定した「欧米型」を前提にします。
1.CSR調達実現に必要なリソース
まず、CSR調達を、「根性論」の「やっつけしごと」にしないために、社内的な環境整備から述べます。これは今、日本の多くの企業では、CSR担当セクションが新設されています。CSR調達の実践には、従来の調達購買部門のリソースだけでなく、CSRの担当セクションとも協力しつつ実現を目指します。
(1)前提条件
CSR調達の実践は、次の3つをまず実践しなければなりません。なかには、社内関連部門に先んじてやってもらうべき内容もありますので、社内の検討状況を注視しつつ、調達購買部門で次の順番で準備を進めます。
①企業としてのCSR対応方針
買うモノを調達購買部門で決められないように、CSR調達にも企業としてのCSR対応方針が必要です。「CSR報告書」「報告書」「統合報告書」といった名称で明文化されていれば、企業としてのCSRの方向性が示されているはずです。記載内容を十分理解して、CSR調達の方向性を検討します。
ここで、「CSR報告書」「サステナビリティ報告書」「統合報告書」がなければCSR調達が実践できないのかどうかを考えます。CSR=企業の社会的責任とは、全社的な対応が必要です。しかし、先に挙げた明文化されたCSR方針がなければCSR調達ができないかといえば違います。CSR調達におけるテーマは、すでに次の9つに絞られています。
調達購買部門には、サプライヤーとの間にさまざまな契約事項が合意事項として存在します。全社の方向性が示されないからなにもしないのではなく、現在のサプライヤーとの合意事項と、以下の9つのポイントを照らし合わせて、網羅されていない部分の特定、特定されたポイントを、CSRの観点でどのように網羅していくかについては検討できるはずです。
CSR調達といっても、従来の仕組みを大きく変更する必要はありません。従来の仕組みや合意事項を生かしつつ、不足部分に手を加え構築を進めます。
1.自社に適用される法令の内容と動向を理解し遵守している
法人に適用される法令:会社法、民法、刑法、労働法
企業や業界によって適用される法令:下請法、他
地域によって適用される法令:条例
2.法令違反しない社内教育や、遵守状況の定期的なチェックをおこなっている
教育機会の提供(社内/社外)
サプライヤーを訪問して確認できる法令遵守内容(従業員/労働環境)
3.人権侵害やハラスメントの通報・相談ができる体制にある
相談窓口の設定
サプライヤー訪問(監査)時の確認
4.環境(地球温暖化、汚染物質、自然環境)に配慮する具体的な取り組みをおこなっている
ISO14000取得状況
各業界におけるグリーン調達やゼロエミッションの取り組み
5.製品、商品、サービスの安全性が最優先事項と社内で認知されている
従業員の日常的な姿勢と、唱えられた「異」に立ち止まる風土
6.公開すべき情報と、守秘すべき情報が区別して管理されている
情報管理規定の整備状況と、危機管理体制の整備
7.地域との共存を意識した貢献をおこなっている
従業員の直接的貢献:近隣の清掃
企業として組織敵貢献:地域組織と連携して活動
金品提供による貢献:寄付
8.公職(公務員、政治家)との接触は、関連法規を理解した上でおこなっている
公務員:国家公務員倫理法(同規定)、刑法(贈収賄罪)、不正競争防止法
政治家:政治資金規正法、公職選挙法、不正競争防止法
9.反社会的勢力との従業員の個人的、組織的な接触はない
企業倫理規定への盛り込み
外部機関への相談とサポート
もし、全社的なCSR推進部門が存在すれば、CSR調達実践に必要な役割分担を明確にして、調達購買部門の役割の明確化をおこないます。調達購買部門のCSR推進上の役割とは、サプライヤー対応です。従来の仕組みを活用して、必要最小限のプラス部分を見極めます。
(2)調達購買部門
調達購買部門では「CSR調達方針」の策定を最優先でおこないます。ここで悩ましいのは、ISO9001/14001といった基準といえる文書が、現時点でCSR調達には存在しない点です。解決策としては、すでに策定している企業のCSR調達方針を参考にします。はっきり言ってしまえば「まね」します。前に述べた9項目をみてもご理解いただける通り、どんな企業にも共通する普遍的な内容です。したがって業種が異なっても、内容はとても参考になります。多くの企業に参考になるCSR調達方針は、次の通りです。
大きく2つの章で構成されるシンプルかつ、欧米型CSRの内容も網羅しているガイドラインです。2つの章は「1.基本的調達基準」「2.人権・労働・環境・腐敗防止に関する調達基準」に分かれています。1章は、従来の調達購買ガイドラインを踏襲した内容。2章がCSRにまつわるテーマを付加しています。抜本的に見直し、新たな設定なしに、従来の調達購買基準(ガイドライン)を生かしながら、新たな課題を取りこんだ点で、どんな企業でも参考にできるサンプルです。
22ページにもおよぶCSR調達関連テーマの網羅性が高い内容になっています。潤沢な社内リソースを活用しまとめあげた点は素晴らしい半面、明記された内容を確実に実行するためには、どれほどの費用が発生するのだろうと、少し心配になってしまう内容です。リンクをクリックしていただくとご理解いただけますが、グリーン調達と紛争鉱物調達が、同じページに別立てで掲載されています。3つの文書を合わせると合計40ページ以上!この記載内容を全てサプライヤー監査で確認するには、どの程度の時間が必要なのでしょう。こういった文書は作成するだけでなく、事細かにルール化し、サプライヤーに依頼して、実行状況を確認しなければなりません。
CSRは、内容はいかようにも高められます。そして、この日立製作所の内容は、確かに必要とされている内容ばかりです。しかし、明文化した後の実行内容を踏まえ、市場からのニーズと、自社の対応リソースの間で、実行できるバランスある内容にしなければなりません。
完全にサプライヤーの行動規範の中に、従来からの要求事項とCSR的要求事項を統合したスタイルです。ただし、リンクを参照すると、サプライヤー行動規範とは別にグリーン調達基準が別建てで掲載されています。市場ニーズの変化は激しく、追従に精一杯対処する姿精いっぱい像できます。
これまでにご紹介したサンプルは、CSRに関する指針・規範といった文書を、別建て→一部従来の内容と統合→完全統合の順に並べています。最終的にサプライヤーへ要求する内容なので、時々に参照する文書が違う状況は、見落としといったミスを誘発しますし、なにより対応しなければならないサプライヤーのモチベーションを削ぎます。CSRにまつわるサプライヤー要求事項を設定する場合は、従来の要求事項との融合を目指します。
行動指針・規範が設定されたら、次に周知徹底です。これは、サプライヤーへ説明会を開催して、取引関係の継続には不可欠であるとの理解を進めます。同時に、調達購買部門内のみならず社内関連部門への設定された内容の教育を実施します。指針や規範の内容が素晴らしい程に、社内に理解されていない場合は、逆にリスクが高まります。従業員の認識と、設定された指針・規範の内容のギャップ解消をねばり強く進めます。