CSR調達の実践 4

前回はCSR調達に必要な方針設定について、具体的な事例も含めお伝えしました。今回はCSRの考え方が、実際に企業活動で失われた事例をご紹介します。CSR調達の実践では、調達購買活動において、これから述べる5つのケースを発生させないための方法論が必要です。

 

(1)事例1 人権

 

  • 日本の電器メーカーのサプライヤーによる人権侵害

 

【事件の概要】

・日本の電器メーカーのサプライヤーである日系のマレーシア企業A社に勤務しているミャンマー人の労働者が、給与が不当に差し引かれていると主張

・そのようなことを言うと本国に返すとA社から脅迫

・マレーシアの人権活動家がA社に事実確認を求めるも回答が無く、ミャンマー人労働者の訴えを自らのブログで公表

・指摘を受けたA社は「人材派遣会社から派遣を受けているため自社には責任がない」とブログを書いた人権活動家を名誉毀損で訴え

・この会社と取り引きのある日本の電器メーカーに対しても「A社の訴訟を取り下げさせろ」との抗議活動が巻き起こり、日本の電器メーカーのグループ企業にまで抗議のメールが数百と届き、香港では抗議団が事業所に押し掛け

・一部事実誤認があったことを人権活動家が認め、謝罪広告を掲載することを条件にA社が損害賠償訴訟を取り下げることで和解が成立

 

この事例では、日本の電器メーカーを、仮に皆さんの勤務先と位置付けると、二次サプライヤーで起こった問題です。「A社と取り引きをしている」との事実によって、日本の電器メーカーまで一時的に糺弾される事態へと至りました。この事件から得られる教訓としては、次の3点が挙げられます。

 

1.サプライヤーであっても、労働者の人権問題に関する問い合わせ、レターに対し、無視はありえない。

 

この事例では、問い合わせの事実は認識されていました。しかし、二次サプライヤーであり、どのように対処すべきかの検討に時間を要した結果、対応が遅れ大きな騒動に発展してしまいました。最近のこういった問題の指摘では、指摘された内容が事実かどうかにかかわらず「調査する」「調査結果が事実であれば、真摯(しんし)に対応する」を、まず発表しています。調査の結果、事実無根だと判明するケースもあります。ただ、事実関係の調査している時間も、具体的な企業としてのコメントがなければ「対応の遅れ」と認識され、結果的に企業の対応姿勢に疑問が呈されるとの事実は認識しておくべきです・

 

2.国内法で判断せず、グローバルスタンダードで考える

 

人権活動家の主張は、法律上の問題でなく「セーフティーネットから漏れた人たちへの対応を考えるように」がポイントであり、適法かどうかは問題ではなかったとされました。このように書いてしまうと、なんでもかんでもあれもこれもとなってしまいますが、法律を順守しているから問題ないとの主張をおこなう場合は、注意が必要です。ここで述べる「グローバルスタンダード」とは明文化された基準はありません。都度、問題が発生したときに、企業の立場ではなく、問題を抱えた立場で考えられるかどうか。自社がその問題解決に影響力を行使できるかどうかとの観点で考えなければなりません。

 

3.「自社を守る」でなく、あくまで中立を保ち、CSRマインドに基づいた判断と対応が必要

 

抗議の内容に筋違いだと腹をたてるのではなく、「人権問題に対する姿勢が問われている」と考えなければなりません。今回の事例でも、直接取引をしていないサプライヤーのサプライヤーで起こった事例です。筋違いと腹をたてなくても「うち(自社)に言われてもなぁ」くらいは考えてしまいます。上記2でも述べた内容と似ていますが、自社のみが正しいかどうかでなく、当事者が正しいかどうかの判断が必要です。

 

(2)事例2 情報管理

 

  • B社顧客情報不正流出事件

 

【事件の概要】

・Bから通信教育講座などの顧客情報760万件が社外に漏洩。情報漏洩は最大2070万件に達する可能性

・B社の顧客データベース(DB)の保守管理をおこなっていた外部業者で派遣社員として働いていたシステムエンジニア(SE)が、警視庁の任意の事情聴取に対し「データを持ち出した」と認めた。同庁生活経済課は不正競争防止法違反(営業秘密の複製)容疑で捜査

 

この事件の当事者と、各社のやったことを以下の通りまとめました。

 

<クリックすると、別画面で表示されます>

 

  • この事例から読みとれる教訓

 

1.性善説より性悪説的管理の必要性

 

このB社では、再発防止策として、従業員の出退社時のチェックに金属探知機を導入しました。日本企業は、従業員を「ルールを守る存在である」といった性善説に基づいた管理をおこなっています。しかし、日本企業で頻発するさまざまな不祥事は、この性善説を前提とした管理では防げません。金属探知機を導入するといった強い処置には、いろいろな意見があるはずです。しかし、この事件で、実際に個人情報が流出した被害者を納得させる再発防止策としては、ここまでする必要があったのです。

 

2.「君子あやうきに近寄らず」的発想

 

この事件では、名簿を流出させた企業の対応が問われました。そして報道内容には、名簿の購入企業の名前も取り沙汰されました。「名簿」の販売/購入は、ルールの下で合法であり、現在今回流出した類の名簿は「こども」で、もっとも入手しにくくなっています。ここで「ルールの下で合法」とは、個人情報保護法では、情報提供者の同意(または同意に代わる措置)が必要とされています。今回のケースでは、2070万件の同意があれば、購入した名簿の使用には、なんら問題がなかったことになります。しかし、全ての情報に同意を取っているかどうかを確認する術はありません。今回の事件では不当に持ち出されたデータでした。安全が確認されない場合は、そういった情報にも手を出さないとの姿勢が必要です。

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