「持続可能な調達」を最低限正しく理解する 9(牧野直哉)

前回まで「持続可能な調達」に関する今日的なテーマを述べてきました。今回より、さまざまな出来事や事象の「根っこ」の部分に存在する基本的な考え方について解説を加えます。

●CSR/持続可能な調達の定義~林立する規格を理解する

現時点では、国際標準化機構が策定した規格に加えて、各国の非政府機関や業界団体が中心になってさまざまな規格が林立しています。これには、社会的なニーズの高まりにより必要性ばかりが強調された結果、具体的にどう実現するのかについて、問題意識を持った人や組織が、それぞれに解決策としての対応の標準化を行った結果です。どんな規格であったとしても、基本的な考え方は同じです。しかし、これから取り組みを行う場合、やはり汎用性の高い規格に準拠して、さまざまな対応内容や仕組みを構築すべきです。

●ISO26000
国際標準化機構が策定した国際規格です。持続可能な発展を実現するために、世界最大の国際標準化機関:ISOによって多様な参加と合意のプロセスで開発された、あらゆる種類の組織に向けた、社会的責任に関する初の包括的・詳細な、手引書(SRの規格)です。企業の社会的責任に関するもので、事業活動を通じて利害関係者との間に生じる社会的責任を果たすための行動指針になります。
・法律遵守
・人権への配慮
・知的財産の管理
・個人情報の保護
・組織内の不正防止のための内部統制
などが対象とされています。注目されるのは、第三者審査で規格への合格を決定する「第三者認証」を目的にしないと明記され、過熱気味の認証ビジネスを抑制する方向が示された点です。この点は、日本国内のみならずグローバルの多くの企業で、逆に「お墨付き」がもらえないために、非政府機関や業界団体によるルール設定の動きへの布石になったともいえます。

ISO26000は、2010年11月に正式に発行されました。内容は次の通りとなっています。ISO/SR国内委員会監修、日本規格協会編:『日本語訳 IS0 26000:2010 社会的責任に関する手引』、日本規格協会、2011年から、全体像をつかんでいただくために目次を抜粋しました。

まえがき
序文
箇条1 適用範囲
箇条2 用語及び定義
箇条3 社会的責任の理解
3.1 組織の社会的責任:歴史的背景
3.2 社会的責任の最近の動向
3.3 社会的責任の特徴
3.4 国家における社会的責任
箇条4 社会的責任の原則
4.1 一般
4.2 説明責任
4.3 透明性
4.4 倫理的な行動
4.5 ステークホルダーの利害の尊重
4.6 法の支配の尊重
4.7 国際行動規範の尊重
4.8 人権の尊重
箇条5 社会的責任の認識及びステークホルダーエンゲージメント
5.1 一般
5.2 社会的責任の認識
5.3 ステークホルダーの特定及びステークホルダーエンゲージメント
箇条6 社会的責任の中心的主題に関する手引
6.1 一般
6.2 組織統治
6.3 人権
6.4 労働慣行
6.5 環境
6.6 公正な事業慣行
6.7 消費者課題
6.8 コミュニティヘの参画及びコミュニティの発展
箇条7 組織全体に社会的責任を統合するための手引
7.1 一般
7.2 組織の特性と社会的責任との関係
7.3 組織の社会的責任の理解
7.4 組織全体に社会的責任を統合するための実践
7.5 社会的責任に関するコミュニケーション
7.6 社会的責任に関する信頼性の向上
7.7 社会的責任に関する組織の行動及び慣行の確認及び改善
7.8 社会的責任に関する自発的なイニシアチブ
附属書A(参考)社会的責任に関する自発的なイニシアチブ及びツールの例
附属書B(参考)略語
参考文献
ボックス1 この国際規格の利用者のための要約情報
ボックス2 男女の平等と社会的責任
ボックス3 IS026000と中小企業の組織(SMO)
ボックス4 “ 加担”を理解する
ボックス5 組織にとっての社会的責任
ボックス6 国際人権憲章典及び主要な人権関連書
ボックス7 児童労働
ボックス8 国際労働機関
ボックス9 労使合同安全衛生委員会
ボックス10 気候変動への適応行動の例
ボックス11 国連消費者保護ガイドライン
ボックス12 消費者紛争解決
ボックス13 ミレニアム開発目標
ボックス14 組織の中核活動を通したコミュニティの発展への貢献
ボックス15 社会的責任に関する報告
ボックス16 認証可能なイニシアチブ及び商業的又は経済的利害に関するイニシアチブ
ボックス17 ISOはイニシアチブを是認しているわけではない

ポイントは、次の3点になります。

・7つの中核主題
①組織統治、②人権、③労働慣行、④環境、⑤公正な事業慣行、⑥消費者課題、⑦コミュニティ参画および開発

・7つの原則
「説明責任」「透明性」「倫理的な行動」「ステークホルダーの利害の尊重J「法の支配の尊重」「国際行動規範の尊重」「人権の尊重」

・社会的責任の定義
組織の決定及び活動が社会及び環境に及ぼす影響に対して、次のような透明かつ倫理的な行動を通じて組織が担う責任。
・健康及び社会の福祉を含む持続可能な発展に貢献する。
・ステークホルダーの期待に配慮する。
・関連法令を順守し、国際行動規範と整合している。
・その組織全体に統合され、その組織の関係の中で実践される。

同様の規格には、次のようなものもあります。

●国連グローバル・コンパクト
http://www.ungcjn.org/gc/

1999年の世界経済フォーラムで、当時のアナン国連事務総長が企業に対し遵守・実践を提唱した行動原則。2000年に正式に発足。当初は人権・労働・環境の分野からの9原則となっていたが、2004年に腐敗防止が加わり、10原則となる。

●OECD多国籍企業行動指針
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/csr/housin.html

世界経済の発展や企業行動の変化などの実情に合わせ,これまで5回改訂。「行動指針」に法的な拘束力はなし。内容は、一般方針,情報開示,人権,雇用及び労使関係,環境,贈賄・贈賄要求・金品の強要の防止,消費者利益,科学及び技術,競争,納税等,責任ある企業行動に関する原則と基準

「OECD多国籍企業行動指針(2011年改訂版仮訳)」(PDF)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/csr/pdfs/takoku_ho.pdf

●経営者のための企業行動規範対応チェックシート
~”企業行動規範”の策定・実践で経営力向上~
https://www.tokyo-cci.or.jp/survey/csr/
東京商工会議所作成「企業行動規範 第3版」
・経営者のための企業行動規範対応チェックシート
日本語、英語の対訳表。企業が「企業行動規範」を活用・実践するにあたり、自社の企業活動を振り返り社会的責任に関する対応度を確認できるよう構成

今回、さまざまな規格をご紹介しました。いろいろありすぎてウンザリといった印象をもたれた方も多いでしょう。しかし冒頭に「林立」と書いたとおり、ガイダンス規格となった時点で、外部からのお墨付きが得られなくなったために、自社で考えて具体的にどうすべきかを決定しなければならなくなった点が、持続可能な調達の対応では、もっとも重要なのです。もし、すでにCSR統合報告書といったアウトプットを出している企業の場合は、その報告書の中で自社の活動が明記されているはずです。報告内容に沿って、淡々と持続可能な調達を実践すれば良いのです。もし、そういった報告書がない場合は、今回ご紹介の資料に目を通した上で、自社にとっての「持続可能な調達」の姿を明確化が欠かせません。

次回は、そういったニーズに応えた形で昨年リリースされたISO20400について、解説します。

(つづく)

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