「持続可能な調達」を最低限正しく理解する 8(牧野直哉)

前回まで「持続可能な調達」を脅かすリスクについて、5つのポイントでその内容をお伝えしました。今回は「持続可能な調達」だけではなく、CSRや今流行のSDGsにも共通する企業にとってのステークホルダー(企業の利害関係者)の変遷について、従来の考え方と現在最新の考え方を対比させ、前回ご紹介したようなリスクがなぜ発生するのかをお伝えします。

・利害関係者の範囲
実は、一般的な企業にとっての利害関係者(ステークホルダー)は、考え方によってその網羅される範囲が異なります。したがって、定義が確立していない状況です。この点が「持続可能な調達」を推進する上でも、誰の話を聞くのかといった点で対応を難しくしている部分です。一般的には、株主や従業員、取引先、地域社会といった、非常に広い関係者が該当します。

・利害関係者の範囲の拡大/細分化
「持続可能な調達」を考える上で、ステークホルダーの「地域社会」に含まれる具体的な組織であり考え方の拡大している実態は、必ず理解しなければなりません。

そもそも「地域社会」とは、企業が所在する場所の近隣の住民であり、地方行政であり、地理的な近隣性で想定していました。ところが、いくつかの市場環境の変化によって、確かに「地域社会」なのですが、その対象が組織化されたり、サプライチェーンのグローバルな展開によって、必ずしも地理的な近隣性では含まれないステークホルダーも登場するようになりました。

こういった事実上のステークホルダーの拡大の起源は、1990年代のヨーロッパの政治にあります。イギリスの労働党に代表されるようなEU各国の政府が左派政権になり、企業に対してもより利害関係者の重視を政治が求めるようになりました。その背景には、企業に対して利益を追求するだけではなく、社会に「善」をもたらす存在として、政府に代わって新しい機能を果たしてほしい期待も込められていました。

その結果、従来の考え方では「地域社会」と非常に広くとらえてきた利害関係者が、組織化されたNGOやNPOとして、声を出して企業に相対する存在になりました。また、グローバルに展開されたサプライチェーンによって、例えば日本企業の事業活動によって、海外のある国のある地域で何か問題が起こるといったような例が明るみに出るようになりました。直接的な取引関係はなくても、同じサプライチェーン上に存在する企業であるとの理由で、発生した問題との因果関係が指摘されるようになりました。この点に関して、日本には直接的な取引関係の有無を根拠に、同じサプライチェーン場に存在したとしても、自社との関係を否定する考え方を持つ企業が多いのが実情です。しかし、国際的には資本関係、直接的な取引関係がなくとも、企業の社会的な責任はサプライチェーン全体に及ぶ考え方が一般的です。この部分の日本と海外とのギャップは、徐々に埋まりつつあるものの、いまだ大きな開きがあると考える方が無難でしょう。

また「持続可能な調達」を実行し「企業の社会的責任」を実現させるための基礎的な活動となるコンプライアンス(順法経営)も、日本企業であれば日本国内法やルールだけを順守すれば良いのではなく、サプライチェーンを網羅するさまざまな国の法律やルールの順守が必要になってきました。さまざまな企業に関連する問題に関しては、国際的な行動規範やイニシアチブ、法規制が行われるようになりました。アメリカの金融規制改革法では、紛争鉱物に指定された4種類の鉱物資源について、企業の直接的な調達先のみならず、サプライチェーンすべてを網羅したトレーサビリティを確立して、特定の地域からの調達を行っていない証明をする必要があります。イギリスの現代奴隷法でも、イギリス国内のみならずサプライチェーン上に存在する国における奴隷労働を禁じています。企業活動が、国と国の間で密接に結びついているため、国内規制だけではなく、自国外の活動における問題点も含めて規制する考え方が一般的になりました。

したがって、企業の利害関係者を考えるとき、従来の株主や顧客、消費者、従業員のくくりに加えて、

①自国内のみならず国際的なルール、行動規範、法規制
②市民社会といった漠然とした存在ではなく、NGOやNPOといった組織

を含めて対処を考える必要があるのです。結果的に、さまざまなステークホルダーが企業に対して「持続可能な調達」を求める環境が整いつつあるのです。

(つづく)

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