連載5回目「日本人はこれから何を買うのか」(坂口孝則)
・ハンドメイド人生哲学
そして個々人がインターネットを通じて情報発信をすると必然的に、個人に注目が集まる。子どものなりたい職業に「YouTuber」がランクインするなど、自分をさらす行為自体が、ひとびとを惹きつける。有料メルマガが情報を売っていると考えたら間違いで、あれは発行しているひとそのものを販売している。
それまで商品が介在していたところ、通信の時代においては、情報だけが介在する。前述では、多くの商品やサービスの支出が横ばいか右から下がりになっている状況を説明した。では、何が代わりにあがっているのか。それは通信費だ。
(↑通信費支出 *二人以上の非農林漁家世帯)
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固定電話、携帯電話、スマートフォン、ポータブルLTE、プロバイダ、光回線……。私帯は、いま常につながっていないと生活できない状態にある。そして通信費はずっと右肩上がりの状態にある。そして見ているのは、たわいもない、YouTuberの戯れというのは、なんという皮肉だろう。
昨日まで”素人”だったひとたちが創作活動をはじめ、余暇は労働となり、労働は消費となる。
そして創作対象物は食生活、衣料、小物雑貨、家具類を通じた社会参加を啓蒙するにとどまらない。自分自身といった、生身の自分そのものを啓発する方向に進んでいく。前述の有料メルマガ、インターネット上での有料会員制度、サロンなどでの主催者を囲んだ定期的会合、私塾、多くのカリスマがファンから会費を徴収して小宇宙が多く誕生する。
米国では「サブスクリプションサービス」といい、次世代のビジネスモデルとして注目されている。しかし、なんてことはない。ハンドメイドの人生哲学を会員に販売する、グル・モデルなのだ。
これらはもともと宗教が役割を担ってきた。そして、ヒッピームーブメントがドラッグや精神世界を連れて、その宗教の代替となろうとした。さらに、ロハスやスローフードは、消費という形でそれにとって代わろうとした。最後に、多くのカリスマは、そのまま教祖の代替として周囲を籠絡している。
マス・カスタマイゼーションは、YouTubeならぬ、YouMakerの潮流を作り出している。同時に、インターネット上のSNSやサロンなどで、YouTuberたちは、YouGodともいえる存在感を持ち出している。
ところで、「女子会」「同期会」「おやじ会」といった小イベントをしかけることが飲食店のテーゼとなっている。私の経験で恐縮だが、近くの飲食店で聞いたところ、ワインの売上の実に1割は、昼に開催される奥様方が消費している。最近では、このような集まりに見られるように、ネットだけで完結しないことも注目に値する。
現在、「OtoO」というビジネス用語がある。これは、「オンライン・トゥ・オフライン」の略語で、ネットだけでは完結せずに、実際のリアルなイベント等で収益を確保することだ。かつて、インターネット上の動画配信さえあればアーティストのライブに来ることはない、と思われていた時期もあった。しかし、実際にはライブの売上は上がっている。
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これはさらに検証が必要であるものの、タダであっても拡散されればされるほど、結果としてアーティストの生涯収益は上がるといった研究もある。
これは単純に結論付けることを控えねばならない。ただ、「情報」と対極にあるように感じられる「リアル」の二つが伸びてきているのは示唆的だ。
カリスマの時代には、なぜだかカリスマに会いたい、という気持ちが発露する。
私がこのことを批判的に描いていると思ったら、とんでもない。むしろ私は第四段階として必然とすら思っている。
<つづく>