シングルソースサプライヤに対処する方法(牧野直哉)

今回は、シングルソースサプライヤへの対応策を検討する過程で判明したグローバル企業の調達・購買戦略をお伝えします。シングルソースサプライヤへの対応には、多くのバイヤが苦慮しています。しかし購入規模の大きなグローバル企業の購買戦略には、スケールメリットを生かしてシングルソースのデメリットをみごとにクリアしています。

まず調査したグローバル企業の特徴は2つあります。

1.自社は「寡占」状態(グローバルマーケットシェア 40%以上)

まず自社の販売面では、マーケットで寡占状態です。グローバルでの競合企業がマーケットに数社しかいません。購入力のもっとも大きな裏付けは、実は販売力に源泉があります。大きな購買力を有効的に活用して、自社に有利な購買を実現しています。

2.限定された製造拠点から全世界へ販売

市場に近い場所で生産するのではなく、集中生産して製品を全世界に展開するビジネスモデルです。自動車や一般的な電機メーカーではありません。こういった例を調査した背景には、日本製造業の強みは今、消費財よりも生産財にあります。消費財であれば、現地ニーズをくみあげるためにも、生産だけでなく開発の現地化が求められますが、生産財の場合は世界で唯一+αの限定された拠点から世界への展開が可能です。

こういった前提条件をもった場合、直接材の場合は徹底した集中購買をおこない供給サプライヤの絞りこみをおこないます。非常に大きな発注ボリュームを背景に、バイヤ企業はサプライヤに対して、もし失注した場合は事業が継続できないほどに低いレベルの売価設定をおこないます。例えば、バイヤ企業の製品に搭載される製品は、粗利益をゼロで購入します。サプライヤはどこで利益を創出するかといえば、アフターマーケットにおける補修部品やメンテナンスです。こういった対応を「ドンブリ」と呼ぶ場合もあるでしょう。重要な点は、最低限サプライヤの事業が継続できるレベルを、バイヤ企業が見極めている点です。バイヤ企業は、サプライヤからの購入金額を査定して決定などしていません。サプライヤの利益創出方法を操っているのです。

こういった調達・購買戦略を実行するには、企業内で営業戦略と調達・購買戦略の整合が必要です。サプライヤが継続できるギリギリの価格レベルで購入していれば、いいかげんな見通しで想定よりも大きく下落方向にぶれた場合、サプライヤの経営問題へと発展します。調達・購買と営業の戦略上のリンクが、量だけではない購買力の源泉となってサプライヤに作用するのです。

一方、グローバル企業になると間接材の購入も規模が大きくなります。直接材と同じく集中購買をおこなう場合もあります。しかし間接材購買戦略はサプライヤを分散させた競合購買です。競合実現のために、複数のサプライヤが同じように理解できる要求仕様のバイヤ企業/複数のサプライヤ間の共通言語化を進めます。具体的には、仕様書や見積依頼書を準備し、漏れのない依頼を、複数のサプライヤに効率的に実施できる準備を進めます。

バイヤや購入要求元は、購入仕様書や見積依頼書の作成に力を注(そそ)ぎ、個別のサプライヤとの仕様確認や打ち合わせは最低限に抑えます。対応できるサプライヤかどうかのチェックは必要ですが、基本的にオープンポリシーにもとづいて、サプライヤの商談参加をうながし、競合状態が正しく機能する環境整備をおこないます。

直接材と間接材で、調達・購買戦略の内容に大きな違いが生まれるとすれば、マーケットにおけるサプライヤの数です。物やサービスを提供できるサプライヤが多ければ、競合は実現しやすくなると同時に、バイヤ企業主導の集中購買の効果も大きくなる可能性があります。一方、間接購買品に対して、サプライヤの少ない直接購買品は、一筋縄では競合環境の創出が難しくなります。極論すれば、直接購買品は、独占化、寡占化しやすい性格をもっているとも言えます。そういったなかで、競争原理を働かせ、競合だけを目指すのは得策でしょうか。シングルソースサプライヤの対応には、競合だけではなく、独占や寡占状態でバイヤ企業に有利な調達・購買を実現するための、競合戦略以外の考え方も必要なのです。

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