シングルソースサプライヤに対処する方法(牧野直哉)

シングルソースサプライヤに苦しんでいるバイヤーの話を聞いていると、もう1社サプライヤがいてくれれば、ばら色の購買業務が可能になるような印象を受けます。たしかに、購入可能なサプライヤが2社以上になれば、サプライヤのいいなりにならずに済むと考え、2社以上を競合させ有利な条件を提示してくれるサプライヤを選択が実現すると考えている様子がうかがえます。そういった明るい見通しの根拠は、複数社購買です。

ここで皆様に質問です。競合の1つの実現形態であるリバースオークションで、競合の効果を十分に発揮するために必要なサプライヤの「社数」は何社でしょうか。「最適購買への挑戦 リバースオークション編 高橋 量一著」によると、ハーフインダール指数が0.15(公正取引委員会の表記だと1500)以上になると、競合による価格の動きに悪影響をおよぼすとあります。この数値だけだとなんやら分かりませんね。複数のサプライヤからほぼ均等の割合で購入している場合、サプライヤが7社以上でなければ、競合による価格の動きに悪影響=独占状態による悪影響がでると考えてください。この「0.15」は理論的に導かれた数値ではなく、アメリカのディーコープ社の経験則です。この数値は、どんな意味を持つのでしょうか。

社以上のサプライヤから購入可能であれば、十分な競合効果が得られるでしょう。しかし、実質的に7社以上を対象に競合可能な購入品はどんなものでしょうか。先ほど御紹介した本は、主に間接購買品を扱っています。テーマはリバースオークションです。7社のサプライヤから購入するモノの品質はどのように確認するのでしょうか。過去におこなった品質確認が、現在も有効であるかどうかをどう担保するのでしょうか。7社以上のサプライヤを競合させるポイントは、サプライヤの管理方法です。また、サプライヤの管理をおこなわなくても良い、あるいは軽微な確認で良い購入品だからこそ、採用できる方法論なのです。

直接購買でも7社以上のサプライヤを競合させ、もっとも条件の良いサプライヤが選択できるのであれば、それに超したことはありません。しかし、シングルソースサプライヤに悩む購入品は、そもそも供給可能なサプライヤの社数が少ないと想定されます。機能や品質要求内容も高い場合は、7社のサプライヤにすべて同じ条件を維持する作業自体が高いハードルになってしまいます。サプライヤの管理費用もシングルソースサプライヤの7倍です。そういった条件をクリアしても、7社のサプライヤがすべてバイヤー企業に魅力的に感じ好条件を提示し続けるように導くのも、時間を要する難しい対応を強いられるでしょう。

7社の購入可能なサプライヤを確保すべきでしょうか。まったくその必要はありません。2~3社で十分です。しかし、実現可能な2~3社のサプライヤ体制では、ただ競合すれば、自社にメリットのある条件が提示される可能性は少ないと考えるべきです。2~3社で競合していると捉えるのではありません。2~3に絞りこんだサプライヤを、どのように競合させるか。サプライヤ同士で、どうやって競争力をかき立てるのかは、複数社購買体制にあっても、バイヤーが継続的にサプライヤへおこなうアプローチにかかっているのです。

2~3社から購入する体制で、もっとも避けるべき事態は、自社の好まざる「すみ分け」の存在です。2~3社のサプライヤが同じ購入カテゴリーの場合、なにか共通のファクターによってカテゴライズがおこなわれているはずです。そのカテゴライズのなかで、用途や大きさといったなんらかの基準で、対応範囲が決まり、長年にわたって発注するサプライヤが固定化している状況を「すみ分け」とします。この場合、すみ分けによって役割分担がサプライヤごとに実質的に決まっていると、競合がおこなわれても、役割分担していないサプライヤは、自分の担当範囲を守るために、バイヤー企業には競合する姿勢を示すでしょう。しかし、結果的にすみ分けが撃ち破られなければ、すみ分けによってサプライヤの発注品目が既得権化しているのです。

複数社購買体制があっても、競合環境が機能しているかどうかは別問題です。たとえ2~3社の購入先候補があったとしても、独占状態の弊害は除去されない、そのような危機感をバイヤーは忘れてはなりません。言い替えれば2~3社による独占状態です。2~3社の独占状態の打破、競合状態の維持にもっとも効果的な対応は、2~3社の構成メンバーの入れ替えです。2~3社に入ったポジションが失われるかもしれないサプライヤの危機意識を呼び起こすバイヤーの行動です。同時に恐怖心の喚起だけでは、長期的な安定供給は難しくなります。自社と「取引する価値」を、サプライヤに正しく理解させ続ける努力も必要です。

危機意識と取引する価値をサプライヤに感じさせるには、恐怖心はバイヤーの新しいサプライヤの開拓や、すみ分けを崩す発注方針の提示といった「行動」で示します。発言によって恐怖心をかき立てるのは避けます。また、取引の価値は、納入によって自社事業への貢献への感謝と敬意の念を言葉にして伝えます。

(つづく)

無料で最強の調達・購買教材を提供していますのでご覧ください

あわせて読みたい