バイヤー現場論(牧野直哉)

5.コストダウン打ち合わせのとき

調達・購買部門に寄せられるもっとも大きな期待、それは購入価格の低減=コストダウンです。サプライヤにその必要性を認識させる「推進者」として、具体的なコスト削減活動を実行する「当事者」として、調達・購買部門の役割は非常に重要です。

近年、購入価格の低減が難しくなったといわれます。加えて原材料費の変動や、為替変動による影響が大きく、コストに必要なもう一つの要素である「安定性」の維持も難しくなっています。このマーケットに影響を受けるコスト変動が、企業業績における調達・購買部門の重要性を高めている側面も見逃してはなりません。しかしマーケットの変動のすべてをコストダウン含めた調達・購買部門の取り組みによって吸収するのは困難です。コストダウンの取り組みは、一朝一夕に成果がでません。単年度の10%の取り組みよりも、毎年定期的に1%のコストダウンが、結果手にマーケットといった外部要因の変化の対応にもつながります。

また、人件費が高い日本の製造業が、グローバルマーケットで生き残るためには、購入コストの削減は不可欠です。購入価格が下がらないと嘆く前に、できることはすべてやったのか。顧客である調達・購買部門の立場を最大限生かしサプライヤを訪問し、じっくり購入価格低減=コストダウン対応について議論します。

①コストダウンの「起点」を作る

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コストダウンが難しくなった本当の理由は、いつの世も変わらず、市況変動とは別の所にあります。建前ではサプライヤも、社内関連部門もコストダウン推進に賛同します。異は唱(とな)えません。しかし、本音はどうでしょうか。コストダウンはできるならやりたくない、これが本心です。実際、一度購入仕様が決定して、検証が完了した購入品は、あまり変更を加えたくないのが自社の技術部門や、品質保証部門、サプライヤの本心です。設計完了時点でコスト要素の80%が決定されるとするセオリーを踏まえた、開発購買といった設計初期段階への取り組みは、完成した製品へ変更を避け、だったら最初から考える取り組みです。

加えて、バイヤーはどうでしょうか。バイヤー自身も、社内からの要請や目標がなければ、可能ならコストダウンせずに過ごしたいと思っていませんか。コストダウンが進まない理由は、売る側と買う側双方の消極的な姿勢こそが最大の理由です。では、バイヤーの積極的な主導だけでコストダウンは進みません。バイヤーと社内関連部門、サプライヤが同じく積極的ではなければ、コストダウンは進みません。まず、コストダウンを進める目的の打ち合わせをサプライヤで開催し、双方の「起点」にします。コストダウンの始まりです。

②本当のコストダウンを目指す

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「かりそめ」のコストダウンを御存じですか。これは、サプライヤの利益を削る形で購入価格の低減が実現し、バイヤーにだけメリットのあるコストダウンです。短期的には「かりそめ」のコストダウンもあるでしょう。「かりそめ」コストダウンの最大の問題は、いずれ継続できなくなる点です。サプライヤの利益を削るだけだと、そう遠くない将来に必ず限界が到来し、価格の維持や値上げといた意志決定につながります。

目指すべきは、発生するコストを減少させる「本当」のコストダウンです。発生する費用の減少を自社とサプライヤの共通のテーマにして、双方で発生する費用をトータルで低減する取り組みを実行します。こういった活動を推進するためには信頼関係が必要です。そして忘れてはならないのは、活動による具体的なメリットが自社だけでなくサプライヤにも必要です。したがって、前提条件として双方の発生コストをできる限り明らかにして、協働した活動によって生じたメリットは折半か、双方が納得する方法で分配します。

③方法論とスケジュールがキー

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コストダウン打ち合わせの開催がサプライヤから了承されれば、コストダウン活動にサプライヤのコンセンサスが得られたと判断します。コストダウンとは、サプライヤとバイヤーの終わらない責務です。打ち合わせでは、コンセンサスを前提に、具体的な方法論や、スケジュールについて、バイヤー主導で進めます。

仮に、コスト削減する「ネタがない」とサプライヤが発言する場面を想定します。バイヤーは、これまでにはどんなネタがあって、どのようにコスト削減を実現してきたのかについて質問します。今回は、異なる視点を持つバイヤーも協力して一緒に進める。期日を決め、お互いがネタ出しをおこなって、次の打ち合わせで双方が検討結果を発表するといった形で、具体的な実行内容とスケジュールを決めます。「ネタがない」とは、サプライヤにコスト削減に割くリソースがない、もしくはやる気がない意思表示です。ここはバイヤーが粘り強く、サプライヤが断りづらい打ち合わせを主導し、結果的に活動に巻きこみます。バイヤーは、コストダウンのネタの前に、サプライヤの関係者を巻きこむ方策を考えます。コストダウンはどんな企業であっても変わらない重要な課題であり、サプライヤとは必ず共有する基本的な合意事項です。もし、サプライヤの認識が違っていたり、取り組み姿勢に問題があったりは、サプライヤの採用を継続するかどうかといった判断も検討します。

<つづく>

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