バイヤー現場論(牧野直哉)
6.トラブル処理では、利己的にサプライヤを守れ!
自社とサプライヤの間でトラブルが発生したとき、どのような対応が必要でしょう。トラブルを解消し、原因究明と再発防止までおこなうには、さまざまな対処が必要です。調達・購買部門では、トラブルの発生に関連して、サプライヤを訪問し、対応状況の確認や、事態の打開を図る場合があります。あってほしくない事態ですが、発生した場合は、自社の利益を利己的に最優先し、早急に解消するための方策を学びます。
①必要性と効果のバランス
トラブル発生直後、多くの当事者は混乱しています。購入品のトラブル発生では、サプライヤ社内は混乱しているかもしれません。トラブルに関する情報連絡がサプライヤからおこなわれず、自社内もサプライヤの混乱から影響を受け混乱する。こういった事態に直面した経験をおもちの方も多いでしょう。
サプライヤでトラブルが発生したら、自社側は調達・購買部門が中心に対処します。これは、必要な対応はルール化し、さらにトラブル発生時に社内へむけて宣言します。サプライヤ側の混乱を、社内に波及させず、的確な情報収集とスピーディーな対応を実現するためにも、必ず社内でコンセンサスを確立し、トラブル発生時はあらためて浸透させます。
サプライヤ混乱の自社内への波及は、情報管理に原因があります。サプライヤの混乱によって十分な情報提供がおこなわれず、自社内は発生した事態に関する情報が不足します。そういった状態が続くと、社内各部門から調達・購買部門に「いったいどうなっているんだ?!」と、怒号とともに問い合わせがおこなわれます。
情報不足を解消しないと、各部門が自部門に影響する偏った情報収集を独自に始めてしまいます。各部門で入手された情報は、各部門から統制なく発信されます。そこには、事実なのか、推測なのか、いつの時点なのかといった、情報の見極めに必要な重要な点が抜けおちています。結果的に自社内に流れる情報は、前後関係も事実関係もめちゃくちゃな内容になってしまいます。このような状態に陥ってしまうと、サプライヤで発生したトラブルに加え、自社内での情報管理トラブルが加わり事態は更に深刻になり、解消には多大な労力が必要となってしまいます。サプライヤのトラブルで自社内が混乱しないために、初期対応では、徹底した情報管理が必要です。まず、サプライヤからの情報入手と状況確認の発信を調達・購買部門に一元化します。自社内からトラブルに関する新たな情報が寄せられた場合は、情報を入手した時間と、入手元を合わせて確認します。最新の事態を掌握し、自社の対処に必要な情報が不足していると判断した場合、サプライヤ訪問を決断します。
サプライヤのトラブル発生時にバイヤーが訪問するのは、余計な負荷をサプライヤに強いて、結果的にトラブルの解消の妨げになってしまいます。トラブルの解消に集中してもらうためにも無用の訪問は避けます。しかし、トラブル発生以降、経過時間を合わせ考えても十分に情報開示されない場合は、ちゅうちょなくサプライヤに押し掛けます。混乱しているサプライヤを訪問するかどうかの判断は、自社内でサプライヤの実情をもっとも理解している調達・購買部門にしかできません。的確な状況判断が必要となります。
②サプライヤ守る覚悟
サプライヤでトラブルが発生すると、納期や品質は厳守し、同時に発生原因や、再発防止策に関する報告書を求めるケースがあります。トラブルの解消、復旧だけでも負荷は増大しています。調達・購買部門は、サプライヤの対応人員を見て、優先順位を設定し、サプライヤだけでなく、自社内にも優先順位を展開します。サプライヤを守るのは、大目に見るといった意味ではありません。サプライヤのリソースで、本当にできるのかどうかを判断する。その上で、同時進行が無理な場合に優先順位を設定します。サプライヤから合意を取りつけても自社が優先順位を守られなければ新たな混乱を呼ぶ原因となってしまいます。
こういった対応は、自社内からみればサプライヤ側の立場で、あたかもサプライヤを守っているように写ります。自社内に対し、サプライヤを守るのは、自社のメリット追求であり利己的な目的だと明言しましょう。まず、混乱を脱し、事態を打開して当面の問題を解決する。早期の解決で、もっとも被害が少なくなるのは、自社であり、同時にお客さまへの被害も最少化します。サプライヤと良好な関係を守るためではなく、利己的に自社のメリットのために、サプライヤを守ります。
③原因究明と再発防止
トラブル発生による当面の危機を脱すると、ひとまず安心できます。しかし、そのままでトラブル対応を終わらせてはいけません。どんな仕事でも、トラブル発生をゼロにはできません。しかし、同じトラブルを再び発生させない対策を施してトラブル対応は終了します。再発防止策まで完了するのがバイヤーの責務です。具体的には、次の3つのプロセスで進めます。
(1)発生原因の明確化
まず、なぜ発生したのかその原因を明確にします。なぜ自社の要求内容が達成されなかったのか。調達・購買部門は、事前に要求内容が満足させられると前提して発注したはずです。不具合の発生=当初目的の未達成であり、発注前の判断が誤りだった可能性があるのです。どんな不具合でも、必ず理由があります。原因究明はサプライヤだけでなく、自社の発注プロセスも見直しをおこないます。
(2)再発可能性の検証
原因が明確になったら、再発可能性を検証します。これは、再発防止するかどうかではなく、再発防止策の度合いを判断するために活用します。発注品が特殊で、再び発注可能性が少なく、他の製品への波及性も少ない場合と、類似仕様品があって、発注頻度も多い場合は、再発防止策の深度が変わります。基本的には、発注頻度にかかわらず根源的な原因を明らかにして、徹底的な再発防止対策をおこなうべきです。しかし、再発防止策の徹底にもコストが発生します。再発を防止するために発生するコストの妥当性を判断するためにも、どの程度の確率で再び発注するのか、再発する可能性があるのかを検証しましょう。
(3)具体的改善の実行とフォロー
原因が判明し、再発可能性もある場合は、時間をおかずに具体的な再発防止対策を実行します。具体的な実行内容を自社とサプライヤ間で共有して、スケジュールを明らかにします。すぐに同じ、あるいは類似の発注をおこなっている場合は、対策前か後かを明確にして、対策前の場合は、不具合品の再流出を防止する対処をおこないます。
また、再発防止策が完了したら、発生した不具合に応じて、完了状況の確認をおこないます。トラブルの発生はやむを得ないとしても、再発は顧客からの信頼を失い、結果的に自社の顧客満足に大きく影響します。調達・購買部門といえども、顧客の存在を強く意識して、サプライヤへの対応をおこないます。
<つづく>