講演録「調達・購買担当者のための成長の技法」(坂口孝則)

*2016年6月8日の講演速記より

この連続公演シリーズも、なかなか難しいテーマに入ってきました。テーマは、調達・購買担当者が成長するための技法だそうです。

これについてもさまざまな本が売られていますが、私なりに考えるところを述べていきます。まず、成長のためには何らかの投資をしなければなりません。これは疑いようのない事実だと私は考えます。そういう私もいろいろな勉強をしました。おそらく皆さんと同じような内容です。たとえば英会話、TOEIC、そして昼食中小企業診断士、簿記とか。

TOEICは試験を受けましたが、その他のものは試験を受けて資格を取ったわけでもなく、どちらかというと中途半端に終わっているのが現状です。これは半分冗談なのですが、最近「異業種競争」という言葉があります。それまで敵だと思われていなかった商品同士が対決せざるを得ないことです。たとえば、本をたくさん持ってる人からすると、広い家を買わなければ本を全て収めることはできませんでした。しかし、たとえばすべてをPDFにしてiPadに入れたらどうでしょうか。そうなると住宅の敵がiPadになるわけです。それと同じく教育産業の分野においては、英語教材と会計の教材がライバルになると言われていました。どちらにせよ、若手ビジネスマンの「暇つぶし学習」においては等価というわけです。

そのときに考えておきたいのは、私たちは投資あるいは自己投資という言葉について、常にお金を中心に考えてしまうことです。多くの場合、お金をかけなければ学習できません。ですので気にしなければいけない。それは当然です。しかしもっと重要なことは何か。成長したいときに賭けるのは、お金ではなくて、自分の時間だと忘れてはならないんです。

昔から「プロフェッショナル1万時間の法則」というのがあります。これは何をするにしても1万時間を費やさなければプロになれないとするものです。

怪しい自己投資の対象は何でしょうか。「英語」という人がいます。つまり、これから英語は翻訳ソフトがかなり発達していくので、母国語だけ話せればじゅうぶんではないかと。また、「会計」という人もいます。会計は、仕分けをはっきりすれば誰だってできる仕事ですから、どんどんどアウトソースされる。それによって、その価値はなくなるというのです。

すなわち、英語と会計という、これまで大人気だった商売がもっとも、無価値になる。投資すべき対象ではないという人がいます。これについて、私はやや異論があります。ただしここでは趣旨ではありませんので省きたいと思います。しかし、ここで重要なことは、その投資した時間で磨いたものが、時代によっては途端に役に立たなくなってしまう可能性があることです。

たとえとしては不適切かもしれませんが、昔このようなことがありました。私の会社で調達・購買のシステムを導入することになったのですが、それを使いこなすためにはものすごい時間をマニュアル読みに費やす必要がありました。ただ、それはわずか数年のうちに違うシステムに変わってしまいました。そもそも使えないと思って適当に使っていた不良社員と、そして夜な夜なマニアルを見ながらなんとか使いこなせるようになった社員がいたのですが、不運にも後者の努力は無意味なものになってしまいました。

では、どのような対象に時間をかければいいのか。この話については、これまでもうお話してきました。今回はその対象が決まった後に、いかに効率的に学習するかという”技法”の話をお願いされています。ここでたとえていうのであれば、同じ1万時間をかけるAさんとBさんがいる。Aさんが同じ時間であるにもかかわらず、ものすごい成果を上げた。そしてBさんは同じ1万時間を使ったにもかかわらず、成果を上げることができなかった。そのとき、Aさんがそのような素晴らしい成果もたらした要因には、何があるのでしょうか?

私は三つあると思います。そして重要な順番にお話していきたいと思います。

一つ目。重要なのは、その1万時間を、密度の濃いものできるかどうかです。こういってしまえばもう身も蓋もありません。しかし本当にそうだと思いませんか? 誰も語らないので、繰り返しいっておきたいと思いますが自己成長の技法は、あるいは自己投資の技法とは、なにより集中力を磨くことにあるのです

では、次にどもように集中力を高めていくかの話をしなければなりません。逆説的ですが、集中力を高めなければいけないと考える時点で集中力は高まりません。

そこで二つ目の話に行くのですが、その二つ目というのは「その能力を使わざるをえない締め切りが無数にあること」です。たとえば英語を考えてみても、なんとなく漠然と学ぶ場合は、ほとんど英語が上達しません。しかし、毎週のように英語を使ったプレゼンテーションの資料を出さなければいけない、あるいは外国人とコミュニケーションしないといけない、そういった英語を使う機会、あるいは締め切りがその能力向上に寄与するのです。

私のお勧めは、その能力を他人に教えることです。そして可能であればお金をもらうことが重要です。身につかない順番でいうと、「ただで学習する」というのがもっとも効率の悪い学び方です。そして、その次に「お金を払って学習する」というものです。もっとも効率が良いのが「他人からお金をもらってもら学習する」ということです。このお金ということは、副業規定があるでしょうから、一つの比喩と思ってください。

しかしいまでは、FacebookやTwitter……。さまざまなツールがありますので勉強会をすぐに開催できます。そしてそこで、他人からお金をもらいながら学習できます。難しいことはありません。「これを教えます。一緒に勉強会しませんか」といえばいいだけです。

これはなかなかのパラダイム転換だと思うのですが、何かを学習するときには、まず「どうやってみんなからお金をもらってこの学習自体を仕事にすることができるだろうか」と考える癖をつけることです。

実際私はそうやってきました。すべて新しいことを学ぶときには、その本を書きますといって出版社に売り込んだり、メールなどを使って知人と勉強会を開催したりするのです。その過程で、必死で勉強します。締め切り効果によってはるかに効率的に知識を習得することができました。

そして三つ目ですが、これは定性的な表現をお許しください。なにかというと、それは夢中になることです。夢中になった時ほど集中力が高まるときはありません。それは皆さんもすでにご存知でしょう。しかし、この夢中になることができないから、どうやったら集中力を高めるかということを考えざるを得ないわけです。

そこで技法として重要なのは、その能力を身につけることによって、自分がどういうことをしたいのか、それを周囲の6人に話すことです。この「6人」という言葉の意味は宗教的です。思い出してみてください。人間に何か大きな人生上の変化が起こるときというのは、必ず周囲6人のサポートが必要です。みなさんもそうではないでしょうか。

したがって、有言実行という言葉がありますが、周りの6人に宣言するのです。その学習対象は、あくまでも手段であり、その手段を用いて、最終的には何をしたいのか。そう大げさでなくても構いません。英語学習をしたいとすれば、その英語学習の成果を使って海外赴任でもいいでしょう。あるいは会計の勉強することにより公認会計士になりたい。中小企業診断士を学ぶことによって、大手企業のコンサルティングを行うだとか、何でも構いません。

三つをお話しましたが、何よりもスピードが大切です。100点を目指すよりも70点、80点を目指す。その途中で、学習成果を周囲の人に話したり、あるいは周りの人に見せたりすることによって、次の学習ポイントがわかりますし、そして自分がいま足りないところ、逆に想像以上にウケが良い内容も分かってきます。

高速で試行錯誤を繰り返す必要があるのです。巷では最近、「リーンスタートアップ」という言葉があります。これは、「まず手っ取り早く試作品を作って、市場に出す。それによって、市場の声を使って商品を再設計して、再度、市場に出す」。これを繰り返すことでもっとも素早く起業できるというわけです。

これは個人のビジネスパーソンにとっても有効でしょう。リーンスタートアップならぬ、リーンラーニングが必要なのです。まずはとりあえずやってみる。やってみて、高速で軌道修正し、軌道修正する。周囲と接点を築きながら、新たな方向性を見出していく。これこそが自己投資であり、自己啓発であり、成長の、まさに「技法」だと私が思うものなのです。

調達・購買分野でも、私の速度を超えるひとたちが登場することを願っています。

<了>

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