ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)
4-11最強の調達購買部門を創る ~人事部門に調達購買業務の理解を~
調達購買部門に限らず、企業のもっとも重要なリソースは人材です。重要な責務を実践するために、スキルと適性を兼ね備えた人材確保と育成がなによりも優先されなければなりません。社内他部門と同じく、難しい課題が次々と到来する中で、さまざまな課題に対処できる最強の調達購買部門を造るためには、人事との協業は不可欠です。
☆必要な調達購買パーソン像を伝える
現在の日本の調達購買部門に求められているのは、新卒採用、中途採用に関係なく、次の3つのポイントです。
1.新しさに興味を持てること
2.他人とのコミュニケーションが苦にならないこと
3.バランス感覚に長けている人
この3つは、調達購買部門のみならず、他の部門でも必要となるポイントです。もちろん、調達購買部門に特化した、交渉力や情報力、購入対象の知識も重要です。しかし、現在の調達購買部門は、業務のポイントが、従来の注文書発行に関連するプロセスよりも、前段階へと移行しています。前段階とは、購入仕様を決定する段階であり、サプライヤの製品やサービスを供給できるかどうかを判断するといった段階です。サプライヤ選定は、過去の実績で選定するのでなく、将来必要になるサプライヤを、あらかじめ選定し、競合他社と比較して優位性を確保しなければなりません。このような変化を人事部門にも伝えて、採用活動や人員の異動・配属の決定に反映します。調達購買パーソンが持つべき、望ましいスキルセットは、従来の対外交渉力に加えて、データの分析や論理構築といった緻密な面、そして営業部門と同じように新規サプライヤ開拓に必要とされる自発的な面です。
☆職能設定と評価基準
調達購買部門では、正しく準備をおこない、社内で決定されたスケジュール(納期)通りに必要なリソースを外部から確保しなればなりません。真の優秀なバイヤーは、静かに整斉と行われます。QCDにまつわる問題を発生させず、穏やかに業務を進められるバイヤーがもっとも尊いのです。従来は、QCDにまつわる社内外のトラブルの処理を率先しておこなう、それが優秀さの証とされていました。たしかに、積極的にトラブルへ対処し、被害発生を最小限に食い止めた事実は評価すべきです。しかし、周到な準備によってトラブルを起こさなかった事実は、トラブル処理で得るよりも高い評価をおこないます。これも、業務のポイントが事後対応から事前準備へとシフトしている1つの証です。
☆教育計画とキャリアプランの設定
人材教育は、企業の将来を左右するとても大きく重要な課題です。他部門でもニーズのある教育は、人事部門で企画されます。調達購買部門で必要となるスキル教育は、まず部門内で実行を検討します。検討結果と全社的な教育計画ともクロスチェックを行い、部門内の教育のプログラムを策定します。部門内教育のプログラムは、人事部門にアドバイスを求めつつ決定します。
また、外部のリソースによる教育も活用します。コスト削減手法といった内容だけでなく、サプライヤとの良好な関係構築方法や、開発購買の実践といった新しい手法を教えるプログラムも多数存在します。コスト削減手法は調達購買部門にとって重要な課題です。しかし、他のスキルや手法も重要性が増しています。情報収集を十分に行って、人事部門へ外部教育の導入を提案しましょう。
<4章 終わり>