質問に真面目に答える「契約書のサインについて」(坂口孝則)

質問「私は坂口先生の海外調達セミナーを受けました。そのときに、サプライヤの役員メンバーを確認しなさいといわれました。契約書にサインするのは、権限がなければならないからと。ただ、もし権限がないひとが勝手にサインしても裁判では勝てるけど、念の為に確認しましょう、といわれていたと記憶します。その理由を教えてください」

正確にお話します。海外調達とありますが、国内でも同じです。新規サプライヤを会社調査するときには、ヒアリングなどで、先方の役員メンバーをしっかりと聞きましょう、ということです。なぜならば、会社と会社が契約を結ぶときに、会社というものはペンを持てません。だからフィクショナルな仮定ですが、会社から権限を移譲された人間がサインするのです。

だから、必ずしも役員である必要はありません。たとえばみなさんの会社の取引基本契約書は、サプライヤ代表者とともに、資材部長さんあたりがサインしているのではないですか。資材部長さんがマズいわけではありません。資材部長だって権限を移譲されているのであればOKです(そういう社内文章がありますからね)。

でも、実際に契約書を締結するときに、「このひと、ほんとうに移譲されたひと?」と訊くのはできないし、失礼ですよね。では、たとえば先方の営業部長が勝手にサインしてしまったらどうなるのでしょうか。それが、私の発言である「権限がないひとが勝手にサインしても裁判では勝てるけど、念の為に確認しましょう」につながります。

調達・購買担当者は、これだけ覚えておいてください。

・権限があれば担当者であっても契約は有効
・権限がなければ無権代理(むけんだいり)となる
・ただし、何度も相手と交渉しているなと、こちらが誤解するのもやむなしであれば(交渉相手が権限をもっているとしか思えなかった場合)、それは表見代理(ひょうけんだいり)として先方の企業に責任を負わせることができるよう法律が援助してくれている
・企業は監督責任をもち、監督がしっかりしておらず社員が勝手に契約を結んだとしても、その契約書にたいして責任を負わねばならない

→「権限がないひとが勝手にサインしても裁判では勝てるけど、念の為に確認しましょう」はこの意味です。たとえば、先方の部長が何日にもわたって交渉していたとしたら、そりゃこっちだって権限があるひとと思いますよね。だから、心配しすぎは不要、というわけです(まあでも、ちゃんとチェックはしよう!)。

(了)

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