バイヤ「超」基本業務(牧野直哉)

6.納期設定と納期フォロー

企業によって、納期フォロー業務を調達購買部門でやっている場合と、生産管理部門等で役割分担している場合と、納期フォローはさまざまな部門の担当が想定できます。バイヤが関与すべき納期には「事前」と「事後」の2つの関与があります。

まず「事前」の関与です。ソーシング(サプライヤ選定)を担当する場合、個々の購買案件に対して、納期設定をおこなわないにしても、サプライヤの納期対応力の掌握は必要です。納期対応力はサプライヤの優劣を決定する重要な要素です。サプライヤの解答したリードタイムの妥当性を評価すると同時に、リードタイムが適正かどうか、そしてバイヤ企業のニーズにマッチするかどうかが判断基準になります。

バイヤ企業のニーズとしてサプライヤに求めるリードタイムは、実態に即しかつ実現可能でなければなりません。購買力の強い企業であれば、実際のリードタイムを大きく踏みこんで、サプライヤに在庫を持たせる前提でリードタイム設定も可能です。どこまでの条件をサプライヤが受け容れるのかは、バイヤ企業の持つ「購買力」を忠実に反映します。

バイヤは、リードタイムもサプライヤの競争力を構成する重要要素であるとの認識を持ちつつ、バイヤ企業にのみ独善的でないバランス感覚を発揮しなければなりません。サプライヤからの購買との単独の観点でなく、サプライチェーン全体をにらんでバランスを兼ねそなえたリードタイムの設定を心掛けます。

また、納期設定に際しては、サプライヤと自社(バイヤ企業)の持つ「くせ」を理解した上で対応します。「くせ」とは、次のような内容です。

1.日数のカウント方法:稼動日/カレンダー日/週
2.長期休暇の取扱い:国内/海外
3.リードタイム起算日の設定方法:バイヤ企業の注文書着日/サプライヤの生産手配入力日

こういった内容について、バイヤ企業/サプライヤの双方に認識の違いがあると、納期トラブルの元になります。1は、多くの場合カレンダーベースの日数換算をするでしょう。海外メーカの場合は、納期解答に「週」を用いる場合があります。週番号の設定にしても、カレンダーベース(今週は12週です)の場合もあれば、まれに会計年度を規準にしているケースもあります。また週を日曜日はじまりと月曜日はじまりの違いも存在します。

2は、日本国内の場合だと、盆暮れ、ゴールデンウィークに加え、今年は9月にシルバーウィーク(プラチナウィークともいうみたいですね)と呼ばれる秋の5連休があります。海外では、ヨーロッパの7,8月、中国や韓国の2月の旧正月といったタイミングも、リードタイムに折りこめない期間です。

つづいて「事後」の関与です。これは「納期フォロー」と「納期遅れ」の対処に分かれます。「納期フォロー」は、可能な限り少なく留めます。そして、当初設定の納期が守れない場合は、サプライヤから納期遅れ・納期調整をバイヤ企業へ申し出る窓口を明確します。納期フォローは、納期を順守しているサプライヤ=優秀なサプライヤほど、バイヤ企業側にとっても無駄な業務です。納期順守率に応じて、納期フォローの頻度を決定し、バイヤ企業の要求に応えているサプライヤの負荷軽減を検討します。

最後に「納期遅れ」への対処。これは、様々な理由で発生します。大きく2つに分類します。

(1)意図せず事前に原因を作ってしまっているケース

これは、事前の確認が十分でないために、双方の設定納期の認識にギャップが原因となっている場合です。今回お伝えしている「事前」におこなうべき確認を確実に実行すれば、多くの納期遅れは防止できます。ありがちな状況としては、サプライヤは努力目標でバイヤ企業の希望納期の順守を確約していない、一方バイヤ企業側では「頑張ります」との言葉を確約と受けとってしまうケース。特に、バイヤ企業の希望納期と、サプライヤの対応可能納期のギャップが大きい場合に起こります。

こういった状況では、サプライヤの納期対応が難しいとの事実をバイヤ企業内に伝え、状況に応じてバイヤ企業内での調整もおこないます。あやふやなまま、結果的に納期遅れとの事態を発生させ、時間が限られる中で、コスト度外視の対処をするよりも効果的です。バイヤ企業の社内的には、調達購買部門でサプライヤとの納期交渉力が弱いといった非難を受けるかもしれません。しかし、丹念に事実を積みかさねて、納期遅れの可能性を示し、さまざまな可能性を考慮し、最終的に納期が守られる可能性が少ないとの結論に到れば、バイヤ企業内での調整や、今後の購入案件への改善へと繋げられるはずです。

(2)突発的なケース

この場合、第三者的には「やむを得ない」状況です。発注していたサプライヤの倒産や、自然災害の発生、最近の事例では、米国ロサンゼルスの2つの港で昨年発生したストライキが該当します。これは、バイヤ企業が直接的に事態改善できないケースです。この場合は、まず的確な情報収集を調達購買部門でおこない、入手した情報を社内に周知して、発生している事象に対し、正確な社内共通認識を確立します。関係者それぞれによって不確かな情報が追加され、誤った情報が社内に流布されてしまう事態を避けます。

また、倒産、自然災害といった外部要因がなくても、サプライヤで発生した問題により、バイヤ企業にしてみれば「突発的」な納期遅れも発生します。この場合、原因はサプライヤ社内、もしくはサプライヤの購入先に原因が存在します。こういったケースでは、対応すべきテーマを二つにわけます。まず、連絡を受けて以降におこなうサプライヤ側の実施内容にともなって発生するリードタイムを細分化して掌握します。細分化したリードタイムのボトルネックとなっている要素へ、集中的に対策を講じます。つづいて、納期遅れ問題が沈静化したら、原因究明と再発防止対策へと移行します。

納期遅れ問題で、もっとも避けるべき事態は、同じような事例の度重なる発生です。倒産や自然災害は、バイヤ企業の力(ちから)だけでは、なかなか避け難いのが実情です。そういった場合は、効率的にスピード感を持って対処する。サプライヤに起因する問題では、繰り返し起こさないために、一度発生したら原因究明と再発防止を確実な実施が欠かせないのです。

(つづく)

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