ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

<7 利益を出すコストダウンと改善手法>
3.実績コストを掌握する ~「積み上げる」コストと原価企画

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購入コストを分析する場合、部品ごと、サプライヤーごとの分析に加える手法に加えて、製品や機種ごとの自社(バイヤー企業)の「販売単位」でも分析しなければなりません。これは、自社(バイヤー企業)の1製品や1機種ごとに必要な全購入品の価格の総和(そうわ)を算出する「積み上げ方式」といわれ、自社(バイヤー企業)製品の一単位(個)の原価を、部品表(Bill of Material、通称BOM)やレシピ(原材料の配合表)などを基準にしておこないます。

☆確認すべきコスト
積み上げ方式で確認するコストは過去に購入した価格の実績、また購入実績がなければ、サプライヤーから提示された見積金額になります。実績購入価格と見積価格が混在する場合は、価格根拠の違いを後からわかるようにしておきます。自社(バイヤー企業)製品の一単位(個)を実現するために必要なあらゆる要素のコストを集めて集計しましょう。「あらゆるコスト要素」には、調達・購買部門が管理する購入品のみならず、企業によってさまざまなコストが該当します。可能であれば、購入品以外のコストにも着目します。これは、われわれが扱っているサプライヤーの購入価格がもっているもう一つ側面によるものです。

調達・購買部門の取り扱う購入価格には、自社(バイヤー企業)の「コスト」との側面と、サプライヤーにおける「売価」との側面があります。例えば、サプライヤーからの購入金額が高いからコストダウンを推進しなければならない。そのためには、購入価格の分析が必要だ、との事態を想定します。サプライヤーから購入するモノやサービスの直接的な原材料や人件費だけでなく、それ以外の間接的な発生費用や、サプライヤーの利益といった数値まで含めなければ、ほんとうの購入価格分析はできません。

では、直接的に発生する費用だけでなく、間接的に発生する費用まで含めた分析手法をどのように学べばよいのでしょうか。サプライヤーからの情報公開には限度があります。しかし自社(バイヤー企業)であれば、理由があれば、関連部門に依頼すれば、さまざまな情報が入手できます。サプライヤーからの購入価格を分析するために、企業のコスト構造を理解するには、まず自社(バイヤー企業)を調べて理解するのがもっとも適しているのです。

自社の分析によって、製品やサービスの競争力や、自社の強み、弱みといった点も理解できます。調達・購買部門の持つ戦略は、企業としての強みは伸ばし、弱みをカバーしなければなりません。そういった視点をやしなうためにも、購入費以外への着目は、重要な意味を持っているのです。

☆原価企画によるコスト削減活動の課題
原価企画では、まず製品や機種を特定し、次に構成部品を特定した上で、コスト状況を明らかにして原価低減活動へとつなげます。調達・購買部門では、特定の製品や、機種のBOMやレシピを元に、最新の購入実績、単位ごとの購入費を積算します。同時に購入実績の数量についても合わせて調査します。購入数量によって価格が異なっている場合も想定します。

調達・購買部門では、購入単位(購入する製品単位や、材料単位)や、サプライヤーごとでのコスト削減活動は行っています。しかし、原価企画をベースにコスト削減を行なう場合、販売単位(製品や機種)ごとの管理が必要です。ひとつの例が、新製品と旧製品のコスト削減アプローチの違いです。新製品で、従来製品対比で生産数量の増加し、販売価格の下落が予想される場合、購入コストの削減は急務です。一方、旧製品であり数量的にも減少する見通しの場合、コスト削減の必要性は理解できます。しかし優先順位からすれば、優先度は低くなります。これは企業内のリソースにもよりますが、より効果の大きい、あるいは緊急度の高い案件へ優先してバイヤーリソースを投下します。

従来の調達・購買部門のコスト削減の切り口である購入単位ごと、サプライヤーごとでは、原価企画に対応するコストダウンには対応が難しくなります。これは、従来手法が購入単位、サプライヤー単位の「個別最適」であるためです。原価企画は、全社的な活動であり、競争が激化している中で、開発の初期段階でコストを決定する取り組みです。また、製品化以降の継続的なコスト削減活動にも、販売単位=製品・機種ごとのコスト実績を踏まえて、各購入品やサプライヤーごとのコストダウン活動へと展開するのが調達・購買部門の役割となります。調達・購買部門の担当者ごとの最適化でなく、購入品全体、企業全体での最適化に調達・購買部門としての貢献を目指します。

(つづく)

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