ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

5-4まとめて安く買う ~集中購買のメリット・デメリット~ その2

☆社内で購買量を集中させる

分散していた仕様をまとめるためには、設計部門に代表される要求部門の協力が不可欠です。調達購買部門では「まとめる」のも、要求部門にとっては「変更」となり、新たな作業になります。その作業に要する時間と、まとめで生じる効果をクロスチェックして、会社全体でメリットを生む活動にしなければなりません。

この取り組みでは、まず分散を集中させるために発生するバイヤ企業内の費用を見積ます。これは、設計部門の検討時間のみならず、購入製品あるいはバイヤ企業の販売製品の特性によっては、実機による確認が必要な場合もあります。そういった一連の費用をまず把握しなければなりません。

その上で、サプライヤに発注アイテムの削減をおこなった場合の見積を依頼します。この見積金額と、まとめる前の金額の差額がメリットになります。またバイヤ企業/サプライヤ双方に管理アイテムの削減による、管理コストの削減があれば、それもメリットに含めます。

以上の費用対効果を算出して、メリットがあれば取り組みます。しかし、アイテムあたりの購買量が少ない場合は、なかなかメリットが生まれない可能性もあります。このような取り組みの重要性は否定しません。しかし、効果に対する費用を無視しておこなうのは慎まなければなりません。また、こういった取り組みは、いったん増やした(拡散してしまった)アイテムを減らすのでなく、あらかじめ増やさない取り組みをおこなう前提としておこないます。あらかじめ増やさない取り組みは、なぜ発注アイテムが増えてしまったのか、その理由の追及から始めます。

購入する製品を選定する場合、まず過去に購入実績がないかどうかを容易に検索できるかどうか、そういった仕組みが社内にあるかどうかがポイントです。設計部門が同じフロアに席をおいていたとしても、情報の横通しを、それぞれの設計担当者に依存し、精神論で情報を伝え合うだけでは不足しています。ひとり1台があたりまえになったパソコンで、過去の使用実績が容易に検索できる、できれば検索画面から、図面や仕様、最新の発注実績が容易に入手できるリンクを貼るといったシステム化・データベースの構築が必要です。こういった情報技術の支援を受けて、そもそも増やさない仕組みを作ります。仮に、分散したアイテムを集中化させる取り組みをおこなっても、一回で終わらせ、二度とおこなわないための仕組みを構築します。

☆サプライヤをまとめる

集中購買の最後に、サプライヤの集中について述べます。

これは、同類のアイテム、あるいは複数ソースから購入している場合に、購入しているサプライヤの数を減らして、1社あたりの発注量を増やしてメリットを求める取り組みです。調達購買部門の主導で、特定のサプライヤに発注を集中させます。しかし、この取り組みにも注意点は存在します。

まず、供給停止リスクへの対処です。一般的には、複数の供給ソース(2社以上)の方が、災害や事故といったリスクに対処されるといわれています。サプライヤの集中では、まずサプライヤと良好で強固なリレーションの確率によって、サプライヤの意志(内部要因)で供給が止まる事態の回避をおこないます。その上で、災害や事故による外部要因によって供給ができなくなった場合の対処を想定します。

東日本大震災の直後は、同じサプライヤでも、工場を分散させるとか、異なる地域で複数のサプライヤから供給体制を築くといった取り組みがおこなわれました。しかし、バイヤ企業/サプライヤの双方に、効率面でのデメリットがある取り組みでもありました。そういった反省を踏まえ、現在では供給を止めない管理ではなく、短期間で復旧させる管理が、供給停止リスク管理の主流になっています。代替サプライヤを探し出して購入するのでなく、社内の想定される災害リスクへの耐性を評価して、供給停止期間を最小にとどめます。評価内容としては、BCP(事業継続計画)と、BCM(事業継続管理)を確認します。

最後に、サプライヤを集中するには、新たなリスクが生まれます。集中による他社に発注される可能性が減少は、サプライヤにとって一定の売上が見込める安定した状態です。もちろん、供給の安定は、バイヤ企業にもメリットがあります。ポイントは、供給は安定させるものの、サプライヤとの関係は、適度な緊張感を持ち続ける点です。集中したサプライヤには、調達購買部門から新たな課題を繰り返し与えます。一定の緊張感を維持し、バイヤ企業にとっての安定は維持しつつ、サプライヤにとっての「安住」を防止します。もし、緊張感が薄れてきたと感じた場合は、調達購買部門が主導してすぐに分散購買へと変更する準備も怠ってはなりません。すぐに分散させられる耐性こそが、緊張感を維持しながら集中購買をバイヤ企業にとってメリットを生み続けるために必要な取り組みなのです。

(つづく)

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