一読即決『私は、<ガンで亡くなる方の2人に1人は救えた! >と考えています』(坂口孝則)

異常に面白い本です。健康に問題ある人ない人、懸念のある人ない人、総じてお読みになることをおすすめします。世の中は「がん検診が何が何でも重要だ」と語るひとたちと、「がん検診なんて不要だ」という極論が目立ちます。でも違うのですよね。答えは中間にあるはずです。考えるに「大事な検査と、大事ではない検査」がありますし、「有益ながん検診と、有益ではないがん検診があります」。当然のことです。

本書は東大医学部卒業の必殺仕事人の書いたもの。かなり読ませます。

<「胃カメラの早期胃ガン発見率は胃レントゲン検査の三倍」というデータが好評されて約三十年。いまだに、行政も保険者も、そして医療関係者さえも、この事実を広めようとはしていない(11ページ)>といった衝撃的なオープニングから開始します。

<目黒区の胃レントゲン検診では一六〇〇人の受験者に対して、胃ガンの患者を多くて一人しか発見できなかったこと、一方、足立区ではペプシノゲン法を採用して、二三人もの患者を見つけていた例(42ページ)>

著者が勧めるのは、ピロリ菌を内視鏡検査で見つけるもの。これがまさに著者の言う<私は、<ガンで亡くなる方の2人に1人は救えた! >と考えています>につながります。しかし、レントゲン技師が失業してしまうため、行政はなかなか重い腰をあげなかったようです。しかも、それは構成員の命を守るべき健康保険組合も同じでした。

<十年間付き合いのあったある大企業の健康保険組合から、「長い間お世話になりました。内視鏡の集団検診は今回で終了することになりました」と知らされた。(中略)私は理事長に「たとえ小さくてもポリープはすべてとるべきです。ポリープの全切除をやめてしまうと、昔のように、年二人の組合員が大腸ガンで死んでしまいます」と説明した。すると、理事長は困ったような顔をしてこう続けた。「実は困っているんです。あと一億二〇〇〇万円しかないんですよ」「何がですか」「健保組合の積立金です」(後略)(84ページ)>

などといった腐敗もこれでもかと思うほど記述が満載です。

なお<長年の臨床経験においても、接待で毎晩明け暮れるような人たちには、けっこうな確率で大腸ポリープが見つかる。(中略)>

とのことなんで、やっぱり節制とほどほどの生活が良いのでしょうね。つまらないものの、それが私たちのできることでしょう。本書は患者への優しさに貫かれています。極論ではなく、役立つ凡庸を。私の意見に賛同いただけるなら、ご一読をおすすめします。

(了)

無料で最強の調達・購買教材を提供していますのでご覧ください

あわせて読みたい